3 共通の日

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石碑が建てられていた。その周りを巨大な壁が包む。まるでイタリアの世界遺産コロッセオのようだ。その中に私達がいる。見渡す限りに兵士が集められた広場には家族や恋人と思われる人々が少数固まっている。これだけの人数なのに ここは水を打ったように静まっている。静かすぎるほど鎮まっている。微かな音は人の波に消え、兵士たちは整列して石碑の前に立つ。 葬儀は厳粛で静かだった。 誰かもわからないような兵士たちの名前が厳かに読み上げられる。読み上げられるのは戦死者の中でも国への貢献が大きな者だけだ。全ての戦死者の名を読み上げたら、きっと数日はかかるだろう。誰も泣くことは無かった。恋人も愛人も友人も子供も妻も両親すら、泣かなかった。 目に涙を浮かべながらも同志を笑顔で送ってやりたくて必死で祈り、名も知らぬ同志のための歌を歌った。 美しかった。そんな彼らを守りたいと思った。それと同時に恐ろしかった。同じ生き物同士なのに、同じ心を知っているのに、私たちは殺し合うのだ。 聖歌を歌い、皆で慈しむ。国家の最後の音が広場から消えた後になんともいえない静寂が訪れた。ここにいる兵士皆が一丸となり、明日の戦いの勝利を胸に誓っていた。 その静寂を破るのは、この国の王の一言だった。国王が一声を発するごとに静寂には確かな興奮が生まれていた。この王は人を引っ張り振り回すべく産まれたのかもしれない。そう思うほど、国王カイゼルの言葉は胸を打った。 王の最後の一言が終わり、また静寂が訪れた。その静寂は一瞬にして兵士たちの誓いの雄叫びで消えた。
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