1 死にませんから

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意識が朦朧とする中、私はボーっとしていた。ボーっとしていたせいでトラックにぶつかられたのだから反省すれば良いものをボーっとするのは私の性なのでどうしようもない。何かを考えるのも好きだが面倒くさいと思うとボーっとすることにしている。 私は死んでいないようだった。それどころか病院にもいなかった。 幻覚なのだろうか?なぜかケーラー、ブラッキー、チェーホフが私の周りで尻尾を振っている。フランダースの犬のごとく彼らと天に昇るのだろうか。 そして、目の前に広がるこれが世に聞く三途の川だろうか?周りには行き倒れた……、というより戦いで死んだ西洋の騎士や魔法使いのような格好をしたもの、弓を持ったまま倒れているものすらいる。忍者に侍に魔法使い…、なんて時代も場所もジャンルすら節操がない場所なんだろうか。それ以前に………。 「う゛っ………」 なんて気分が悪いんだろう。目には水滴が溜まってきた。そして、 「あ゛ぐっ…………う゛」 私は嘔吐した。昼の飯も朝の飯も胃の中にあったものは全て、それから胃酸も。口の中に言いようのない不快感が広がる。周りの悪臭も私の嘔吐感を促進した。 口を濯ぎたいが目の前の川は死骸が流れ、血の色に染まっている。 いくら映画や戦争資料館に行っても、過去を憶測するのと体感するのでは全く違う。目の前の凄惨な光景に私はただ嘔吐するしかなかった。
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