カツカツと

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 カツカツと乾いた音を響かせて、僕は階段を下りている。前には見知らぬ初老の男が二人。彼らは互いに見知った風で、時々肩を揺らしながら談笑している。それに割って入る術もなく、僕はただただ早くこのビルを出たいと思いながら、足を交互に踏み出し続けた。  このビルは僕が勤める会社の本社であり、会議が終わった七階のエレベーター付近は黒山の人だかりだった。百人単位の人間がもれなく全員下に向かいたいと望み、その手段としてほとんどがエレベーターを選んだのだから、その混雑は当然だった。僕は様子をうかがって、早く帰宅するという目的を果たすならば、エレベーターを使用するより階段を下りた方が早いと断じた。そう考えた者も何人かはいて、僕の見る限り七人ほど階段への扉を開いた。ばたばたと数人が一斉に階段を下り、人をかきわけて初老の二人が降り、彼らの開けた扉に滑り込んだのが僕だった。
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