~出会い篇~

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拓磨「よう!」 キッチンとリビングが兼用の12畳の部屋。 それほど広くはないが、数十枚の木の板から成るフローリングをバタバタと走る。 走る先には4人用の対面テーブルがあり、そこに置かれた袋には、朝食のパンが入っている。 奈美「何を急いでるの?」 朝っぱらから騒がしい息子を、軽く気にしながら尋ねる。 大体予想はついていたが。 奈美は早起きで、毎日当たり前のように拓磨よりも先にリビングに居る。 拓磨が起きてきた頃には、いつもテレビを見ているのだ。 テレビの内容は、この時間帯ならニュースしかない。 だから今もニュースを見ている。 拓磨が丸い手のひらサイズのパンを口に頬張りながら言う。 拓磨「あはほひゅー!(朝補習)」 拓磨の父親は刑事だ。 仕事の都合で週に1回程度しか帰ってこない。 拓磨は自分で何でも出来る年頃になったし、そのおかげで奈美はのんびりとソファーに座っていられるのだ。 まあ、さすがに夕食は作るが。 奈美「何て言ってるか分からないわ」 奈美が早起きなのは習慣で体に染み着いているのだが、それに比べて拓磨は決して早起きではない。 ただ、しょっちゅう遅刻するような時間に起きるような少年でもない。 拓磨は少しだけ時間に余裕を持って、少しだけ早めに起きる。 決して早起きとは呼べない。 着替え等の起床時間、朝食を摂る時間、登校にかかる時間─── これら時間に余裕を持つことで、自分のペースで過ごすことができる。 今みたいに急ぐのが嫌いなのだ。 平日休日問わず、普段のこれが拓磨の朝だ。 そして、また奈美も同じ事を思ってソファーに座っているのだろう。 しかし残念なことに、今日の拓磨はそれどころではない。 目の前の椅子を、まるで視界の片隅にすら入っていないように無視して、2つ目のパンも立ち食い。 1つ目が口に残っていても、全く気にする気配すら無い。 拓磨「───んッ!」 案の定、水分の少ない食べ物を喉に詰まらせた。
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