16人が本棚に入れています
本棚に追加
拓磨「よう!」
キッチンとリビングが兼用の12畳の部屋。
それほど広くはないが、数十枚の木の板から成るフローリングをバタバタと走る。
走る先には4人用の対面テーブルがあり、そこに置かれた袋には、朝食のパンが入っている。
奈美「何を急いでるの?」
朝っぱらから騒がしい息子を、軽く気にしながら尋ねる。
大体予想はついていたが。
奈美は早起きで、毎日当たり前のように拓磨よりも先にリビングに居る。
拓磨が起きてきた頃には、いつもテレビを見ているのだ。
テレビの内容は、この時間帯ならニュースしかない。
だから今もニュースを見ている。
拓磨が丸い手のひらサイズのパンを口に頬張りながら言う。
拓磨「あはほひゅー!(朝補習)」
拓磨の父親は刑事だ。
仕事の都合で週に1回程度しか帰ってこない。
拓磨は自分で何でも出来る年頃になったし、そのおかげで奈美はのんびりとソファーに座っていられるのだ。
まあ、さすがに夕食は作るが。
奈美「何て言ってるか分からないわ」
奈美が早起きなのは習慣で体に染み着いているのだが、それに比べて拓磨は決して早起きではない。
ただ、しょっちゅう遅刻するような時間に起きるような少年でもない。
拓磨は少しだけ時間に余裕を持って、少しだけ早めに起きる。
決して早起きとは呼べない。
着替え等の起床時間、朝食を摂る時間、登校にかかる時間───
これら時間に余裕を持つことで、自分のペースで過ごすことができる。
今みたいに急ぐのが嫌いなのだ。
平日休日問わず、普段のこれが拓磨の朝だ。
そして、また奈美も同じ事を思ってソファーに座っているのだろう。
しかし残念なことに、今日の拓磨はそれどころではない。
目の前の椅子を、まるで視界の片隅にすら入っていないように無視して、2つ目のパンも立ち食い。
1つ目が口に残っていても、全く気にする気配すら無い。
拓磨「───んッ!」
案の定、水分の少ない食べ物を喉に詰まらせた。
最初のコメントを投稿しよう!