~出会い篇~

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忙しく冷蔵庫から牛乳パックを取り出すと、まるで水に飢えた旅人みたいに口飲みでパンを流し込み、味わう間もなく一気に飲みこんだ。 奈美「ちょっと、もう飲めないじゃない」 もう飲めないというのは、もちろん牛乳のこと。 一見酷い言葉にも聞こえるが、口の中にパンを詰め込んで口飲み。 いくら息子でも、そんな後に飲む気は失せる。 一方、拓磨は朝からこうなるのがイヤだから時間に余裕を持ちたかった。 なのに、今日はこの様だ。 母親に酷い言葉は吐かれるし(自分がコップを使わなかったのが原因だが)、今から行っても遅刻(自分の不注意だが)。 拓磨は朝食を済ませると、再びバタバタと足音をたてながら、今度は洗面所へと直行した。 その頃、母親はというと─── 【ニュース】 「地面が焼け焦げている」と110番通報がありました。 事件があったのは徳島県、小松島市。 住宅が並ぶ路地裏で、何かが不気味な形に焼け焦げていると女性から通報がありました。 現在調査中ですが警察は、最近頻繁に起こっている「火傷通り魔事件」と何か関係があるのではないかと、全力で捜査を進める方針です。 また、周りに血痕が───。 ─── また今日も物騒な事件を淡々と伝えるニュースキャスター。 低い声でハキハキと、カメラに向かって話す姿はどこか、感情の無い機械のようにも感じる。 現場の映像には、警察が「焦げ」を見せないように路地裏に張ってあるブルーシートと、それを見ようと数名の一般人が映されていた。 奈美は無言でソファーに凭(もた)れかかりながら、それを見ていた。 最初に「火傷通り魔」がどうとか言い始め、既に1ヶ月が経とうとしている。 被害件数は、今のニュースも含めて27件。 平均1日約1回のペースで起こっているのだ。 そのせいなのだろう。 奈美は大して驚くような反応を見せることもなく、顔色を変えることもなかった。 拓磨「またか」 その短く軽い一言は、あまりにも率直なものだった。 洗面所からニュースキャスターの声を聞いていた拓磨が歯磨きしながら近づいてくる。 奈美「他人事じゃないのよ。 分かってんの?」
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