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男は右手の鞄を左手に持ちかえると、屈んで倒れた"それ"を元通りにした。
男「よっこらせっと」
最後に、起こした容器の上に転がったフタをポンッと乗せて、はい完了。
男「風もねえのに……。
あ、俺が倒しちまったかぁー!」
元通りにした容器に向かって大きな独り言を放つ。
すると、何かの気配に気付いた。
男「ん?」
さっき路地裏に入ってきた方向に目を遣ると、視線の先には黒いボロボロのマントに黒いフードを被った誰かが目に映った。
身長は、やや大きめの2m前後。
そいつは両手は広げず、しかし通せん坊をするかのように、誰一人の路地裏の通行を妨げるかのように立っていた。
男「どちらさんでーすか!」
フード「………」
ボロボロのマントは、何処からどう見ても不審者としか言い様がない。
普通なら絶対着ないからだ。
日常を暮らしていて、着る機会はゼロに等しい。
そんなボロ雑巾のような黒い布一枚を、そいつは身に纏っていた。
男「一緒に帰るか!?
なんつってなぁー♪」
男の言葉などおとがめ無しに、足音もたてずに近づいてくる黒尽くめ。
フードで顔を隠している。
夜という闇と同化する黒い存在は、数秒後には酔っ払い目の前まで来ていた。
男「俺ゎ一人でちゃんと帰れ…───ッ!!」
───シュッ!!
突然、黒尽くめが何かを仕掛けてきた。
男めがけて襲いかかったのだ。
酔っ払いの脇腹を何かが切り裂き、スーツの生地が破ける音がした。
男「ぐ…!」
たまたま運が良かったのか、奇跡的なのか。
酔っているにも関わらず、男の体は刺される寸前に反射的に反応したおかげで、歩けなくなるほどの傷は負わなかった。
だが酔っているに変わりはない。
今、頭がこの状況が危険だということが認識出来ていても、体が反応して躱しきることは出来なかった。
血が滲み出すスーツは左脇腹を20cmほど斜めに裂かれている。
いかに鋭い刃物で切りかかられたかが、よく解る。
じわじわと血液がカッターシャツとスーツを赤く染め、伝っていく。
流れた液体は、地面にポタポタと垂れていった。
男「お前…最近…ニュースでやってる……」
フード「………」
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