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黒尽くめが無言で答えても、そいつが誰なのか、これから何をするつもりなのかは既に理解できていた。
ズタズタに破かれている布で全身を隠している姿が恐怖心を掻き立て、無言という反応がさらに増幅させる。
既に限界突破した心内環境のせいで、感覚神経が麻痺して痛みが鈍く感じる。
しかし、すっかり酔いは覚めた。
死が近づいてくる。
『死』
その文字と言葉が脳裏を横切った時、追い討ちをかけるかのように傷口が痛みだした。
それを我慢して男は前から目を逸らさずに一歩引くと、前の漆黒の影は、男との微妙な距離を変えることなく接近してくる。
男「ハァ…ハァ……ッぐ!?」
───ドタン!ゴロンゴロン…
目の前の恐怖と死に意識し過ぎたのだろう。
男は足を大胆にゴミ箱に躓かせ、尻餅をついてしまった。
目の前には闇に迷い込んだような漆黒が。
死から目も逸らせない今、体勢を立て直す余裕はどこにも無い。
男「だ…黙ってねぇで何か答えろ!」
フード「……」
両足と右手で、もがくように地面を蹴ったりして後ろに下がろうとするのを、フードはただただ見ていた。
男は無意識に、左手で沢山の書類が入った革製の鞄を盾にする。
仕事には大切すぎる鞄だ。
職場での命とも言えよう。
その命よりも大切な自分の体。
職場の命よりも大切な命だ。
死ねば職場もクソもない。
『生きるための命』が助かるのなら職場の命を傷つけてでも、無くしてでも、自分の体を守ろうとする。
それは人の防衛本能であり、必然的に無意識な反応をする。
その結果が、鞄を盾にすることだったのだ。
額に汗を流しながら後ろに下がる。
動けば動くほど、ますます血が流れ出て脇腹が生暖かい。
脳は今までに無く混乱しながらも、たまたま側に落ちていた石ころを見つけた。
男「こ、コノヤロー!」
これも防衛本能なのだろう。
右手で石ころを力一杯に握りしめると、フードに隠された顔めがけて思いっきり投げつけた。
───カツン!
お見事。
ボロ布を挟んでではあるが、黒尽くめの顔面にヒットした。
同時に、何やらコツンと空洞のある固い物に当たるような音がする。
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