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全く石を避ける気配すら見せなかった黒尽くめだが、男の渾身の一撃には流石に耐えれなかったようだ。
石ころの衝撃に黒尽くめは怯んでしまう。
その時、顔を覆っていたフードが宙を浮くように捲れ、その下に隠れていた顔が、ついに男の前に晒された。
男「な……!?」
あくまでも辺りは暗く、男の目に見えるのは黒い影と、大体の影の形だけだ。
しかし、夜だからこそ見間違うことのない、はっきり見えるものもある。
闇に浮かぶように煌めいたり輝いたりする光。
石ころを当てて僅かに笑った男の表情は、笑う前の恐怖よりも遥かに恐怖の顔に一変した。
全身が痙攣(けいれん)するように震えが止まらない。
震える瞳に映るのは───恐怖、恐怖、恐怖───死、死、死───。
男が見たのは、フードに隠されていた2つの赤い目。
この時、やっと相手が人間ではないと分かった。
ならば、そいつは何なのか。
男の脳内に一番最初に出てきた単語は『死神』。
それ以上に適切な単語は、どれだけ脳内を検索しても該当するものは無かった。
やがてフードは捲れ終わり、怯んだ体も元通りになった。
名の通り、死を伝えるかのような赤く光る目にじっと見られる男は、逃げる事を考えるどころか防衛本能すら働かなくなっていた。
まるで赤い目に体の全てを制御されるかのように。
夜は暗く、ここは3人がすれ違うだけで横幅いっぱいの路地裏。
夜空の不気味な雲から反射された光だけが、周囲の地形やモノの形を影を使って教える。
その影と僅かな街灯のおかげで路地裏の途中まで歩いてこれたし、今目の前にいる黒尽くめにも気付けた。
しかし、周囲の背景は黒、さっき躓(つまず)いた容器や目の前の死神も黒。
体中にはアルコールもまわっているし、赤い目以外、そこまではっきりとは見えていなかった。
それが今や不思議なことに、視界に入る地形やゴミ箱、死神のボロ布の形、フードの下から露になった骨格、
さらにはその全ての色までもが目に焼き付けられたのだ。
ややオレンジがかって。
その時見えた死神の顔は、人の骸骨、つまり髑髏(どくろ)そのものだった。
次の瞬間、男は燃えた。
男「うあ゙あぁぁぁ゙あ゙あぁぁぁ゙ぁああ゙あ゙あぁぁぁ゙あ゙あぁぁぁ゙ぁああ゙!!!」
その悲鳴は路地裏に響き渡り、闇に儚く、静かに吸い込まれながら消えていった。
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