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チャイムが鳴った。
数学の授業だ。
美香が席に戻ると、真澄とあきらが話かけてきた。
「怒られた?」
「大丈夫!ありがとう心配させたね。」
美香が席に着こうと椅子を引いたとき壁に黒いものが動いた。
「きゃ~~!!」
大声で叫びながら、美香は教室の中央まで逃げた。
手の平くらいの大きさのクモだった。
美香はクモが一番苦手で、ついでに形の似ているカニも嫌いだった。
「どうしたの!」
真澄が美香にかけよった。
「クモ…!」
美香は半べそになっていた。
「アカン!俺もクモはあかんねん~」
中野は美香と一緒にうずくまっていた。
「無理~!お父さ~ん!」
家でクモを退治してくれるのは父親だったので、いつものクセでそう叫んでしまったのだ。
クラス皆 どっと笑った。
「お父さ~ん!だってよ!」
「パパ~助けて~ってか?」
皆が美香を冷やかした。
クラスの皆に「うるせ~んだよ!」 と
小山がいった。
その瞬間、クラス中静まりかえったが皆の視線は友永に向けられていた。
友永は立ち上がり、無言で美香の席へ向かった。
そして素手でクモをつかみベランダへ投げた。
「騒ぐな。席に戻れよ。」 友永はそう言ってクモを掴んだ手を制服で拭きながら自分の席に戻った。
美香は一瞬で恋に落ちた。周りが皆笑っていたのに彼だけは笑わなかった。
小さい頃から泣かされたり、ランドセルを隠されたりと、男の子によくからかわれていたので、美香には友永の優しさが心に響いたのだ。
初恋だった。
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