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「美香ちゃん。どないしたんや?痛いんか?さっきからずっと下ばっかり見とるやん。」
保健室からの帰りに足を引きずりながら中野が聞いた。
「ん?大丈夫!心配してくれてありがとう。中野君こそ平気?…腫れて、顔変わってるよ…」
美香は中野の頬に手をあてた。
「へ…平気や!これくらい軽いもんやで!慣れとるからな。」
中野は美香の温かい手に ドキっとした。
そして、その手の温かさに母親を重ねていた。
中野の母親は中野が三歳の時に乳癌でなくなっていた。それからは父親と二人で暮らしていた。
中野は母親が大好きだった。顔は写真の中でしか知らないが、抱かれていた時のいい匂いや、柔らかさだけは覚えていた。
「中野君、小山君、私職員室行ってくる。先生くるように言ってたし。」
「お前、本当にいくの? 放っておけば?」
小山が気だるそうにいったが、美香はもう職員室に走り出していた。
(まったく…。変わったヤツ。今までにいないタイプの女だな…)
小山がクスっと笑った。
中野はそれに気づき、
「小山…俺さ、あの子にマジになりそうや。今まで散々女とは遊んできたけど、ホンマに好きになったことなんかないんや…。今回はアカン。あんな子他にはおらんわ。」
小山は中野の言葉を黙って聞いていた。
「そうだな…。今までの女とは違うな…。」
小山の応えを最後に、二人は黙ったまま教室へむかった。
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