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「友永も入っとるんやで。アイツのはもう完成しとるけど。綺麗な背中しとるで~」
「腕じゃなくて?背中? よくアメリカなんかで簡単にできる入れ墨みたいなのじゃないの?」
美香は洋画が好きで映画に出ている俳優がしているタトゥーを想像していた。
「ちゃうがな。和彫りや。友永は中学ん時に彫り師んとこ泊まり込んで入れよった。夜叉と蛇や。 小山は夜叉と牡丹で、あと色入れるだけや。せやけど、それが一番痛いんや。色入れるん我慢できんと、途中で止めて黒い縁だけのヤツもようけいるんやで。」
「入れたら消せないよね…」
「せやな…皮膚移植とかやったら消せるんちゃうかな?あんだけ痛い目して入れたんや、アイツらも消そうとは思わんやろ…。俺は和彫りは好かん。その代わり…」
中野は話を続けながら左腕の袖をたくしあげた。
「俺のはあんたが言ってたタトゥーゆうヤツや。」
美香は初めて見た。
「綺麗…」
興味津々で中野の側に寄り両手でタトゥーの入った腕を持った。
「触っても平気?」
「ええで。触ってみ。」
美香は夜叉の顔を指で撫でた。
「消えないね…」
美香の顔を間近に、中野は自分の体中の血が全身を駆け巡るのがわかった。
「…テレビとか映画でも観るか?」
これ以上側にいると美香を抱きしめてしまいそうになる。中野は慌てて袖を元に戻して距離をおいた。
「見せてくれてありがとう。たくさん映画のビデオあるね!」
美香は綺麗に整理されたビデオの棚を眺めた。
「なぁ…美香ちゃん、あんたやっぱりピアノとかも弾けるんか?」
「うん。弾けるよ」
映画のビデオを選びながら美香は応えた。
「ノックターンって曲弾けるか?」
美香は振り向き中野の顔を見てうなずいた。
中野は満面の笑顔を見せて立ち上がり美香の手をとり二階へ連れていった。
「ちょっと…その曲弾いてくれへんかな?」
二階の一室にグランドピアノが置いてあった。
美香は中野の言うとおり鍵盤を弾いた。
(かぁさん…)
それは中野の母がよく聞いていた曲だった。
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