初恋

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「疲れてるのに!ありがとう!」 風とエンジンの音に負けないように大きな声で友永に言ったが返事はなかった。 (この制服の下に入れ墨があるんだ… 私の門限どうして知ってるんだろう…皆が怖い人っていうけど、本当は優しい人だと思う…施設で育って…辛いことたくさんあったんだろうな…) 美香は友永の広い背中を見ると胸が苦しくなり、彼の腰を駅までずっと抱きしめていた。 20分ほどで美香が利用している駐輪場の前に到着した。 (えっ…早い…) 美香はオートバイから降りた。 「ありがとう。」 深くお辞儀をしながら美香はお礼を言って彼の顔を見た。 一瞬ヘルメットの奥の友永がクスっと笑ったように見えた。が彼は何も言わずに美香を見ていたが、アクセルを吹かしながら来た道へと走っていった。 その姿が見えなくなるまで美香は見送っていた。 自転車で家に帰ると4時45分だった。 母は美香の顔の傷にとても驚いていたが、まさかケンカに巻き込まれたなど思ってもいないため 「私の不注意で」という説明に何も疑うことはなかった。 嘘をつくことが嫌いな美香には両親に心配かけないように、嘘にならないような精一杯の説明だった。 次の朝。駅の前であきらが美香を待っていた。 「おはよう!」 「おはよう!あきらちゃん!ねぇ、先輩の話してね」 登校しながら、あきらは美香に話しだした。 「私ね、中学の時いじめられてたの… 一年の時、三年生の先輩に付き合ってほしいって言われたの。けど、まだ付き合うとかってよく解らなくて…断ったんだ…。その先輩のことを好きな三年生のヤンキーな女の子がいてさ、私何度も囲まれて殴られたりしてた。 ひどかったよ。トイレに閉じ込められて上から水かけられたり、掃除のモップで顔拭かれたり。 それを彼が助けてくれたの。カッコ良かった。人を好きになるきっかけって本当に些細なことだと思った…。それまで私は先輩たちに、ヤラレっぱなしだった。このままだと助けてくれた彼に悪い気がして…私、抵抗するようになった。殴られたら殴り返してやった。私、強くなったよ!誰かのために人って変われるんだね。」 あきらはニッコリ笑った。 美香は一生懸命誰かに応えようと前向きに話すあきらを大好きになった。 それに¨人を好きになるきっかけは些細なこと¨といったあきらの言葉に友永がクモを退治してくれたことを思い出した。
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