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次の日の朝。
靴を履こうと玄関でしゃがみこむ美香に母が話しかけてきた。
「電車通学…大丈夫?しばらくの間駅まで送ろうか?」
美香は今まで習い事や進学塾と毎日が忙しく、友達と一緒に遊びに出たり、買い物に行ったりしたことがなかった。
どこへ行くのも父か母の運転する車で出かけていたため、一人で電車に乗るということがなかった。
「平気よ。分からなくなったら駅員さんに聞くから!心配しないで!」
心配する母を背に美香は家をでた。
自転車を駐輪場に置き、美香は駅にむかった。
「おはよう!同じ駅なんだ」
後ろから聞こえてきたのはあきらの声だった。
「おはよう!」
美香は少しほっとした。 そしてあきらに言った。 「一緒に行こう!!」
(あきらちゃんがいれば学校まで迷子にならないや)
ホームに着いた電車を見て美香は息をのんだ。
(うそ!何人乗ってるの?窓にまで人が張りついてる感じ…)
朝のラッシュを初めて見て美香は言葉がでなかった。
「乗るよ~」
あきらが美香の肩をポンっとたたいた。
電車に乗車する人の流れに押されて二人は押し込まれるように電車の中へ入った。
駅員が両手いっぱいに伸ばし人を電車に詰めこんでいた。
「美香ちゃん…生きてる?」あきらの襟元しか見えない。
「大丈夫…と思う…私浮いてるみたいなんだけど。足が床に着いてない…」
息苦しい30分間のラッシュを美香は初めて体験した。
学校はこの線の最終駅にある。
電車が最終駅に到着した。
「は~」
押し流されて電車からホームに出た二人は同時にため息をついた。
「これから毎日これ…」 美香はそう言いながらあきらを見た。
あきらは遠くを見ながら 「見つけた…美香ちゃん。私の先輩がいた。」
「先輩?」
「そう…私ね中学から好きだった2つ年上の先輩を追いかけて同じ学校を受験したの。その先輩の名前しか知らなくて…卒業した先輩が白橿の制服着てたから… ごめん…美香ちゃん、
私…先輩追いかける!」
おっとりしたあきらが早口で話し、その先輩のあとを追いかけて走って行ってしまった。
美香は唖然とし、一瞬止まってしまったが学校にむかって歩き出した。
「あきらちゃん追いついたかな?」
美香は校門をくぐりロッカーの前に到着した。
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