ウェイターは脇役……のはず

21/58
前へ
/555ページ
次へ
「ねえねえ輝!今度僕にも湯タンポ布団作ってよっ」 「あ、僕もお願いしたいなぁ。風紀室の仮眠ベッド、冷たいんだよね」 実演も終わり、さて仕事に戻ろうとしたら芹と副委員長に捕まった。 おお、癒し要員ではないか。 「料金は受け取らせていただきますよ?」 冗談半分で言えば、2人はもちろん払うよとすんなり了承した。 ……………なかなか稼げるお手軽バイトかもしれない。 「ひぃ、あの湯タンポ……。一個パチッてもいいかな」 「それはどうあがいても駄目でしょう。人徳的にもどうかと思いますが」 そう言う櫻李はすでに一個、湯タンポを抱えていた。 ……いい子だから返して来なさい。 「……ったく、お前って相変わらず貧乏臭ぇんだな」 「金の亡者よりはマシかと思います」 桔梗くんがふん、と鼻を鳴らして言ったので、俺は皮肉で返しておいた。 君は相変わらず俺を毛嫌いしてるよな。 「…………坂月さん」 ずいぶんと俺の周りが賑やかになってきたとき、予想外の人物に声をかけられた。 「ちょっとお時間、良いかしら」 「…………はい」 斗羽くんのお母さんが、相変わらずの厳格そうな表情で俺を見ていた。 「……ホント、先程のショーには驚いたわ」 俺たちは今、テラスにいる。 2人きりで話がしたいというおばさんが、ここをチョイスしたのだ。 空はすっかり夜空に覆われ、雲に隠れることなく月が辺りを照らしている。 「…ああ、俺なんかが出しゃばっちゃって」 「まったくね」 否定の言葉もなく、率直な突き放す言葉だけが返ってくる。 どうやら俺は相当嫌われてしまっているらしい。 痛くも痒くもなんともないが。 ただ、嫌われるというのは何度されてもいい気分ではないな。
/555ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6688人が本棚に入れています
本棚に追加