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「………坂月さん。あなたは一体、何をご所望なのかしら?」
「――――はい?」
ご所望って、どういうことだ。
「お金?名誉?社会的地位?それとも……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
この人が言わんとしていることは概ね把握した。
しかしその先は言わせない。
「何を勘違いしているのかは存じませんが、一つだけ。俺はそんなものに興味はありません」
するとおばさんは、怪訝そうに顔をしかめたあと、フンと鼻で笑った。
「………どうだか。口ではどうとでも言えるわ。夫にまで取り入るなんて、さすがに度肝を抜かれたわね」
「取り入る、って…」
「本来あなたは、この場にいるような身分ではない。…それはよくご存知じゃないかしら?」
「…………」
「それをわざわざ、夫が雇うという形で参加するなんて……一体どんな手を使ったのか、聞かせていただきたいわ」
その瞳には、憎悪。
俺が心底嫌いで、今こうして対峙していることも忌々しくて――
「目的は何?お金だったら払いましょう。名誉ならさっきのショーである程度獲得したんじゃなくて?
だから………
もう天王寺家には、近付かないでもらえる?」
早く、消えてほしい。
剥き出しにしてくる負の感情に当てられ、俺は一瞬我を失いそうになった。
自分の中で煮えたぎりそうになった怒りを沈め、無表情でおばさんを見た。
「………逆に尋ねます。あなたがそこまでするのは、何の為ですか」
苦しそうに顔を歪める斗羽くん。
帰ることをためらう会長。
罪滅ぼしで頑張るおじさん。
それぞれが、それぞれを思いやっての行動。
しかしすれ違い、悪い方向へとズルズル落ちていく。
だったらあなたは何の、いや誰のために――?
「害虫の駆除。それが天王寺家には常に必要。家の名誉のために動くことが、大黒柱を支える私の役目――とでも言っておきましょうか」
――――ああ、
この人はとっくに、壊れていた。
何がそうさせたのか、俺は知らない。
「…………斗羽くんのことは、どう思っているんですか」
苦々しい思いを噛み潰し、聞いておきたいことを尋ねた。
「当然、大事な息子よ。将来、会社を継がせたいと思うほどにね」
「…………残酷ですね」
俺はテラスの入り口の方を向いて言った。
おばさんもつられてそちらを見る。
「……………母さん」
斗羽くんが、悲しそうな表情で立っていた。
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