ウェイターは脇役……のはず

22/58
前へ
/555ページ
次へ
「………坂月さん。あなたは一体、何をご所望なのかしら?」 「――――はい?」 ご所望って、どういうことだ。 「お金?名誉?社会的地位?それとも……」 「ちょ、ちょっと待ってください」 この人が言わんとしていることは概ね把握した。 しかしその先は言わせない。 「何を勘違いしているのかは存じませんが、一つだけ。俺はそんなものに興味はありません」 するとおばさんは、怪訝そうに顔をしかめたあと、フンと鼻で笑った。 「………どうだか。口ではどうとでも言えるわ。夫にまで取り入るなんて、さすがに度肝を抜かれたわね」 「取り入る、って…」 「本来あなたは、この場にいるような身分ではない。…それはよくご存知じゃないかしら?」 「…………」 「それをわざわざ、夫が雇うという形で参加するなんて……一体どんな手を使ったのか、聞かせていただきたいわ」 その瞳には、憎悪。 俺が心底嫌いで、今こうして対峙していることも忌々しくて―― 「目的は何?お金だったら払いましょう。名誉ならさっきのショーである程度獲得したんじゃなくて? だから……… もう天王寺家には、近付かないでもらえる?」 早く、消えてほしい。 剥き出しにしてくる負の感情に当てられ、俺は一瞬我を失いそうになった。 自分の中で煮えたぎりそうになった怒りを沈め、無表情でおばさんを見た。 「………逆に尋ねます。あなたがそこまでするのは、何の為ですか」 苦しそうに顔を歪める斗羽くん。 帰ることをためらう会長。 罪滅ぼしで頑張るおじさん。 それぞれが、それぞれを思いやっての行動。 しかしすれ違い、悪い方向へとズルズル落ちていく。 だったらあなたは何の、いや誰のために――? 「害虫の駆除。それが天王寺家には常に必要。家の名誉のために動くことが、大黒柱を支える私の役目――とでも言っておきましょうか」 ――――ああ、 この人はとっくに、壊れていた。 何がそうさせたのか、俺は知らない。 「…………斗羽くんのことは、どう思っているんですか」 苦々しい思いを噛み潰し、聞いておきたいことを尋ねた。 「当然、大事な息子よ。将来、会社を継がせたいと思うほどにね」 「…………残酷ですね」 俺はテラスの入り口の方を向いて言った。 おばさんもつられてそちらを見る。 「……………母さん」 斗羽くんが、悲しそうな表情で立っていた。
/555ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6688人が本棚に入れています
本棚に追加