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「……あら、斗羽」
おばさんは愛しそうに微笑むと、斗羽くんのもとへ歩いていった。
「どうしたの?」
先程の会話を……斗羽くんは聞いてしまった。
いや、俺が聞かせたようなものだ。
斗羽くんが俺たちの話を聞いていることは気付いていた。
………俺がわざと、あんな質問をしたんだ。
「……母さん、僕家の後継ぎなんてしたくないよ。兄さんがいるもん」
斗羽くんは悲しそうに目を伏せ、弱々しく言った。
「大丈夫よ、斗羽。あなたならできる。お兄さんなんて、あなたの目じゃないわ。お母さんがついてるもの」
「…………違うんだって!」
宥めるような口調のおばさんを、斗羽くんは遮るように声を張った。
「斗羽、そんな大きい声出して…」
「母さんがそうやって、僕を贔屓するから……っ」
「贔屓?いきなりどうしたの斗羽。お母さんはそんなつもり…」
「いつも兄さんに強く当たってる」
「………」
言い返さないおばさんに、斗羽くんはなおも言葉を続ける。
「兄さんが家に居づらいのも、母さんのせいで……!」
今にも泣き出しそうな斗羽くんを、おばさんは困惑した表情で見つめていた。
「斗羽、あなたの兄がいるから…あなたは肩身狭い思いをしているのよ?それなのに、あなたは兄を庇うの?」
「兄さんがいない方が、ぼくは苦痛だ……っ!」
その言葉に、おばさんは目を見開いた。
すると今度は、俺の方を向いて鋭い視線を飛ばしてきた。
「…………坂月さん、あなた一体……斗羽に何を吹き込んだというの!?」
「―――は、」
「斗羽はこんな風に取り乱して妙なことを言う子じゃないの。どうせあなたが、斗羽に何かしら言ったんでしょう!」
激しく責めるような、高圧的な物言いに俺は開きかけていた口を閉じた。
ヒステリック気味なおばさんは、少々混乱したように斗羽くんを見て、そして再び俺を睨み付ける。
「………母さん、輝さんは関係な……」
「あなたは黙ってなさい!」
斗羽くんが慌てて弁解をしようとしたが、ピシャリと跳ね返されてしまった。
おばさんは一旦踵を返し、フロアに入っていく。
俺はすぐさま斗羽くんに駆け寄った。
「斗羽くん、大丈夫か?」
「輝さん、ごめんなさい……。僕のせいで…」
「気にするな。斗羽くんのせいじゃない」
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