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するとワインを片手に戻ってきたおばさんが、俺を見るなり突き飛ばしてきた。
「ちょっと、斗羽に触らないで!」
「母さん!」
どうやらワインを取りに行っただけらしいおばさんは、怒りに満ちた表情で俺を射抜いた。
「あなたのせいで………、あなたのせいで気分は台無しだわ」
「……………」
何も言わない俺を見て、おばさんはゆっくり近付いてきた。
「何か謝罪の一つでも言ったらどう?それとさっきも言ったけど、これ以降私たちの前に現れないで」
いきり立った気持ちを抑えるように、おばさんはグイッとワインを煽る。
…………それ、かなりキツイものじゃないのか?
「母さん………。母さんは勘違いしてる。輝さんはお金や権力目的なんかじゃない。むしろ僕達が、輝さんといたいだけなんだ」
「…………斗羽、目を覚ましなさい」
「僕は普通だよ」
「斗羽!」
叱りつけるように怒鳴り、斗羽くんはビクリと肩を震わせる。
「………天王寺さん、落ち着いてください」
「部外者が口を挟まないで。いいから早く、あなたは私たちの前から消えてくださらないかしら?」
雲が月を覆った。
月明かりに照らされていた辺りは暗くなり、俺たちの顔には影が差す。
不穏な空気に、今にも飲まれそうだった。
「あなたは、斗羽くんの気持ちを考えたことがありますか」
「当たり前じゃない。常に斗羽を第一に考えているわ。
それよりも、首を突っ込まないでくれる?これはあなたには関係ないことよ」
俺だって、首を突っ込むつもりはなかった。
しかしこうして数日間お世話になり、この家族の影を知ってしまった今、見過ごすことはできない。
結局俺は、ただのお節介だ。
そんな自分に内心苦笑し、俺は続けた。
「だったら今、どうしてあなたは斗羽くんの言葉を聞き入れようとしないんですか。何故、耳を傾けない?」
「聞いているわ。でもこれは、単なる戯れ言。気の迷いなの。しっかりそれを教えてあげないと」
おばさんはムッとしたように眉間にしわを寄せ、噛みついてくる。
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