ウェイターは脇役……のはず

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「だったら…、今まで私がしてきたことは全部無駄だっていうの?」 おばさんは俯き、肩を震わせる。 「か、母さん…?」 「ずっと斗羽のことを思ってしてきたことは、私の自己満足だと言うの!?」 まあ簡潔に言ってしまえばそうだが、俺がそうですだなんて言えるわけもなく。 俺は黙って事の成り行きを見守っていた。 斗羽くんが真正面からおばさんにぶつかっていったんだ。 だったら俺が勝手に割り込むのも気が引ける。 ……さっきまで散々好き勝手言った張本人だが。 「そんなことない。僕は一生懸命育ててくれた母さんに、心から感謝してるよ」 斗羽くんはおばさんの背中を擦り、柔らかい声で話しかける。 しかしおばさんは顔を上げず、いまだに俯いたままだ。 「斗羽には幸せになって欲しいの…。私と同じようなことになって欲しくないのよ」 ………私と同じこと? 「斗羽は目先の幸福を求めているにすぎない。お母さんの言う通りにすれば、将来は絶対に成功する。今を生きるだけじゃ駄目なのよ!」 それはもう、斗羽くんに言っているというよりは自分に言い聞かせているようだった。 おばさんはただ俯き、頭を抱えて独り言のようにブツブツと呟く。 時折ワインを煽り、それを斗羽くんが止めた。 どうもおばさんは、あまりアルコールに強くないらしい。 なのにどうしてあんなに強いものを手に取ったのか… 「斗羽は私が幸せにする…。ただ家族円満に暮らすだけじゃ駄目……」 ずっとブツブツ言っていたおばさんに、変化が表れた。 「…………そうだわ」 ようやく顔を上げ、真っ先に見たのは俺だった。 まさかこちらに来るとは思っておらず、俺は拍子抜けしておばさんを呆然と見つめる。 おばさんの瞳は怒りに揺れていて、今にも俺に飛び掛ってきそうな勢いだ。 「―――あなたが来たから…。あなたが来たから斗羽が惑わされたの……。やっぱりあなたは害虫だった…早く消しておくべきだった!」 「っ、母さん!?」 おばさんは、手に持っていたグラスを俺に向かって投げつけてきた。 何て凶暴な、なんて冗談を言っている暇もなく。 俺は持ち前の反射神経で軽々とグラスを避けたが、グラスの中に入っていたワインを頭から思い切り被ってしまった。
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