ウェイターは脇役……のはず

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「紗代、君は私と結婚してからこうした裏の取引をしていた。そうだね?」 「……ちが、う…」 呆然と、独り言のように蚊の鳴くような声でおばさんは答える。 「ずっと巧妙にバレない工作をして、膨大な資金を巻き上げていた。君のずる賢さには、さすがの私も驚いたよ」 「………」 「しかし今回、君はどうやら工作に見落としがあったようだ。それがバレて、相手はかなりご立腹だ。……あんなに慎重派の君がミスなんて、一体どうしたんだろう?」 あくまで優しく、おじさんは話しかける。 刺々しい感じはなく、それが余計におばさんの表情を歪めさせた。 「それに君は、最近様子がおかしい。輝くんに会ってから随分と焦っているように見えたが…?」 するとおばさんはハッと我に返ったように目を見開くと、俺をすごい形相で睨みつける。 「全部………、全部あの男のせいで…!」 あくまでも俺のせいにするおばさんに、おじさんは首を振っておばさんの両肩を掴んだ。 「紗代。輝くんは君を救ってくれた本人だ」 「え……あなた、一体何を言っているの!?」 おばさんは虫唾が走ると言わんばかりに顔を歪め、ありえないと言い張る。 俺だって意味が分からない。おばさんを救った覚えなんて一つもない。 ………それにしても、強いアルコールのせいで少し頭が回らない。 もともとそんなにアルコールに強い家系でもないんだよな… するとおじさんは、懐から先程まで話題を呼んでいたものを取り出した。 「湯タンポ……?」 おじさんの懐は四次元空間らしい。納得した。
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