ウェイターは脇役……のはず

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「そうだよ。さっきの実演は、ただのパフォーマンスなんかじゃない。君の不祥事を取り除くための作業を兼ねていたんだ」 「………っ!」 不祥事、という言葉におばさんは顔を強張らせる。 自分がしでかしてしまった過ちをダイレクトに指摘され、プライドも名誉もズタボロで… 「今日のパーティ参加者に、例の君の商談相手が出席していた。知っているだろう?」 おばさんは何も言わず、ゆっくりと頷く。 「あの家のグループの会社の一つがね、実は湯タンポ製造工場なんだ」 「え……」 「私は相手が怒り狂って訴えようといているのを必死に止めてもらえるよう頼み込んだ。しかしどんなに条件を出しても、相手は応じなかった。 私が焦るのを見て、鼻で笑っていた。どうやら相手は、以前から君の不正行為を公にしようと目論んでいたようだ」 そして今回、おばさんのミスにここぞとばかりにつけ込んできた…ってことか? だったら今、こうしてチンタラと実演したり話したりしている場合じゃないんじゃないのか? 「だけどね、そこで相手側の湯タンポ製造工場が今にも潰れかかっていることを私は知ったんだ。もうここまで言ったら分かるかな?」 おばさんはみるみるうちに顔が青ざめ、そんなまさか、と小さく呟いた。 俺にだって、働かない脳でも大体は分かる。 「まさか…今日の実演は…」 「ああ。その工場の宣伝目的だ」 「そんな……!」 信じられない、否信じたくない。ただのパフォーマンスにそんな意図が含まれていたなんて、誰が予想しただろうか。 「輝くんをここに招いたのもそれが理由だ。会社とは無関係の人間に宣伝させろ。また不正を働かれても困る。と条件を出されたからね…。 ただその宣伝が上手くいけば、今回は見逃してやってもいいと言ってきたんだ」 そういうことか。いきなりウェイターを任せられたり、湯タンポの実演をさせられたり。 全部おじさんの勝手な気まぐれだと思っていたのに、そんな裏があっただなんて。 「輝くんは予想以上の働きをしてくれて…本当に助かったよ。私の見込みは間違いではなかった。輝くん、ありがとう」 「いや、俺は……」 特別大したことなんてしていない。言われて、その場で何とか事をこなしただけ。 理由も何も知らないのだから、そんなことで貢献しただなんてたいそうな事は言えない。
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