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「………っ、父が…憎かった…。ギャンブルに明け暮れて借金まみれで、それなのにろくに働きもしない。母が生計を立てていた…」
しかし母親はそんな生活に耐えきれず、おばさんを残して去ったらしい。
……何て残酷な話だろう。
収入源を失った父親は、ようやく働き始め……たわけもなく、今度はおばさんに目をつけた。
まだ幼かったおばさんに売春婦まがいのことをさせ、いくらおばさんが嫌がってもただ殴られるだけだったらしい。
そしておじさんと出会った。
「……斗羽ができて、正直気分は最悪だった。金持ちだからって調子に乗って女遊びの激しい男との間にできた子供ですもの。不倫だなんて、誘惑した私が言うものじゃないけれど信じられないわ」
おじさんは痛いところをつかれウッと言葉を詰まらせる。
「そのことに関しては……反省してる」
「分かっているわ。……あのときとはまるで別人だもの」
おばさんは呆れたようにため息をつき、話を続けた。
「でも、せっかくの子供だったから…。かけがえのない命だったから、下ろすことなんてできなかった。だから私は斗羽を産んだの」
おばさんは斗羽くんの方を見て、悲しげに笑った。
目は涙で濡れていて充血しているが、心からの感謝が見て取れる。
「斗羽を産んだことは後悔していない。私に生きる価値を与えてくれた。私は斗羽を守ることを生きがいにした…」
……そういうことだったのか。
過剰なる斗羽くんへの執着。斗羽くんを愛するあまり、盲目的になり罪まで犯した。
それがさっき、その愛する斗羽くんに否定されたことで保っていた均衡が崩れてしまった…。
「母さん……」
斗羽くんは涙ぐみ、おばさんの方を見る。おばさんは一筋の涙を流した。
「その過剰な思い入れが、どうやらあなたの…いや、この家全体の不幸へと招いていたようね」
おばさんはそう言うと、おじさんから離れて立ち上がった。
雲で隠れていた月がようやく顔を出し、再びテラスを明るくする。
おばさんの頬には幾重にも涙の跡があり、月の光でキラキラしていた。
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