ウェイターは脇役……のはず

42/58

6678人が本棚に入れています
本棚に追加
/555ページ
「お、会長様じゃねぇか。どうした?」 そういや、今回のパーティではチーフはこいつだったっけ。 世間ってのは狭いもんだ。 「ああ、坂月の奴が体調悪いみたいだから、早退させるぞ?」 「え?輝が…?」 俺がそう言うなり、担任…ここではチーフか…が心配そうに眉を寄せた。 こいつが輝と呼んでいることに少々妬けてしまった。 ったくこいつは、教師まで虜にしてんのかよ。 「体調悪いって、何かあったのか?てか、何でこいつはバスタオルを被ってんだ…?」 チーフは不思議そうにバスタオルに手を伸ばした。 おっと。そう簡単に見せるわけにはいかねぇな。 俺はさりげなく避けて、チーフと距離をとった。 「こいつ馬鹿で、きついワイン頭から被ったんだよ。それで酔って寝てる」 俺がそう言うと、チーフは「輝って酒に弱いのか…」とほんのり頬を染めた。 おい。何を妄想してやがる。 「それだったら、仮眠室がある。お前だってまだパーティ終わってないから抜けられないだろ。そこに輝を寝かせておけ」 「そうか。サンキュ」 確かに、ここから抜けるのは難しい。 と言っても、両親がメインのパーティだから俺がいたところで何の意味もねぇけど。 ということで、結局暇だからこいつが起きるまで傍にいるか。 事情も聞きださなきゃいけねぇし。 俺は仮眠室の場所を聞き、そこに入って鍵をかけた。 ここで誰かが入って来るとそれこそ都合が悪い。 すやすやと眠る山田を見て、俺は何とも言えない気持ちになる。 こいつは今まで、騙して俺たちの傍に居たのか…? 何でわざわざ、男装までして男子校なんかに入学した。 もしかして、本当に俺たち財閥目当てなのか? いや、こいつに限ってそんなわけない。 そう思いたいが、こいつが女だってことを知って信じるのが怖くなった。 女ってのは、ずる賢い生き物だ。 笑顔の裏で何を考えてるのか分からない。 山田の目的は……? それもこれも全部、こいつが起きたら分かることだ。 それにしても…… ちらり、と気持ち良さそうに寝ている山田に視線を向ける。 腕細い。顔小せぇ。肌白い。 華奢で、今にも折れそうだ。 女だと分かったら、やけにこいつが弱くて儚い存在に思えてきた。 冷静で、しかし時には他人のために熱くなって… その強さの裏は、案外脆いのかもしれない。
/555ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6678人が本棚に入れています
本棚に追加