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「お、会長様じゃねぇか。どうした?」
そういや、今回のパーティではチーフはこいつだったっけ。
世間ってのは狭いもんだ。
「ああ、坂月の奴が体調悪いみたいだから、早退させるぞ?」
「え?輝が…?」
俺がそう言うなり、担任…ここではチーフか…が心配そうに眉を寄せた。
こいつが輝と呼んでいることに少々妬けてしまった。
ったくこいつは、教師まで虜にしてんのかよ。
「体調悪いって、何かあったのか?てか、何でこいつはバスタオルを被ってんだ…?」
チーフは不思議そうにバスタオルに手を伸ばした。
おっと。そう簡単に見せるわけにはいかねぇな。
俺はさりげなく避けて、チーフと距離をとった。
「こいつ馬鹿で、きついワイン頭から被ったんだよ。それで酔って寝てる」
俺がそう言うと、チーフは「輝って酒に弱いのか…」とほんのり頬を染めた。
おい。何を妄想してやがる。
「それだったら、仮眠室がある。お前だってまだパーティ終わってないから抜けられないだろ。そこに輝を寝かせておけ」
「そうか。サンキュ」
確かに、ここから抜けるのは難しい。
と言っても、両親がメインのパーティだから俺がいたところで何の意味もねぇけど。
ということで、結局暇だからこいつが起きるまで傍にいるか。
事情も聞きださなきゃいけねぇし。
俺は仮眠室の場所を聞き、そこに入って鍵をかけた。
ここで誰かが入って来るとそれこそ都合が悪い。
すやすやと眠る山田を見て、俺は何とも言えない気持ちになる。
こいつは今まで、騙して俺たちの傍に居たのか…?
何でわざわざ、男装までして男子校なんかに入学した。
もしかして、本当に俺たち財閥目当てなのか?
いや、こいつに限ってそんなわけない。
そう思いたいが、こいつが女だってことを知って信じるのが怖くなった。
女ってのは、ずる賢い生き物だ。
笑顔の裏で何を考えてるのか分からない。
山田の目的は……?
それもこれも全部、こいつが起きたら分かることだ。
それにしても……
ちらり、と気持ち良さそうに寝ている山田に視線を向ける。
腕細い。顔小せぇ。肌白い。
華奢で、今にも折れそうだ。
女だと分かったら、やけにこいつが弱くて儚い存在に思えてきた。
冷静で、しかし時には他人のために熱くなって…
その強さの裏は、案外脆いのかもしれない。
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