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「冗談だよ。俺は、ただお前が学園を去るのが嫌ってだけだ」
会長はそう言って、俺の額に触れるだけのキスをした。
え……。何だこの甘い雰囲気…
戸惑う俺に、最後に眼鏡を渡して会長は扉を開けた。
おい、俺まだ着替えてない…!
急いでカッターシャツを羽織る。
会長は出て行く間際に頭だけをこちらに向け、微笑んだ。
「じゃあ、残りちょっとだし頑張れよ」
「はあ……」
そして姿を消した――と思いきや、
「あ。言い忘れてたが、そのキスマーク、絆創膏なんかで隠すなよ。隠したら罰になんねぇからな」
意地悪く口元を歪め、今度こそ去って行った。
虚しく鳴る扉が閉じる音で、俺はハッと我に返る。
俺が起きてから、一連の動きが嵐のようで。
短い時間だが、とても激しく。
「会長………、」
会長が俺にキスをする直前、愛おしそうに目を細めた。
あれはまるで、恋人に愛を囁くような。
いや、体験したことないから分からんけども。
「会長は、俺のこと……」
好きなの、か?
あれだけ露骨に感情を出されたら、嫌でも気付く。
俺は生憎、全くの鈍ちんではないからな。
伊達に腐女子はやっていない。
「…………」
ああ、もう考えるのはやめよう。
グダグダ考えたところで会長の気持ちが分かるわけでもないし、何より今は仕事中だ。
任されたからにはやらなければならない。
俺は制服に着替え、部屋を出た。
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