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“この状態で騎乗は叶いませんわね……”
力の入らない膝を無理矢理立たせ、焦点の定まらない目を暗子に向けた。
体の軸はぶれ、決してスマートな構えではないが、それでも。
「私の一撃を受けて、立てるのね」
「手加減、して、ください、ましたもの……。まだ、やれますわ……ッ!!」
その言葉を聞いて、暗子はわずかな驚きで目を見開く。
“手加減されてるのを自覚して、怒らないのね……”
心の底からお人よしなのか。
絶対的な差を自覚しながらも、自分を高める強い意志を持っているのか。
“後者であるのを願うわよね、胸を貸している身としては”
後輩に期待をかけるのは、先輩として当然だ。
やる気……否、闘争心の高い後輩ほど、育てがいのあるというもの。
「良いわよ、そんなに潰されたいなら、何度でも立ち上がりなさいな」
暗子がそう言って、悠然と両手を広げた、その瞬間だった。
彼女の視界の外から、高速の何かが一直線に向かってきたのを暗子は感じ取った。
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