1.災いの予兆

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  「雷神…とは一体?」 聞き慣れない言葉に鷲峰が水蓮を見ると、彼女は舌打ちをしてため息をつきつつ、渋々説明してやる事にした。 「雷神って言うのは、うちのお頭の通り名…まぁアダ名みたいなもんさ。見てりゃわかるよ。死にたくなかったら大人しくしてな。」 まるで子供のように水蓮の言葉に従う鷲峰。彼の生への執着はよほど強いらしい。 「…まさか雷神が直々に任についているとは。」 「今回はたまたま気が向いたからな。…行くぞ!!」 みるみるうちに葵の体を雷光が包んでいく。伊賀・甲賀の里にも名を馳せる雷迅の術の使い手…それが雷神と呼ばれる由縁だ。 「くっ!!雷神を相手にするには…俺では荷が重いか。」 襲いかかる雷撃を避けつつ男が呟く。袖口からくないを窓に投げつけて逃走経路の確保を図った。 「逃がすかっ!!」 「頭領が言っていた通りだな、風魔の雷神。近いうちにまた会う事になるだろう。さらばだ!」 ヒラリと二階の窓から身をおどらせて男が消えた。後を追うために窓に駆け寄る水蓮を制止して、葵は刀を鞘に戻した。 「あいつ、お頭の事知ってたみたいだけど…。」 「あぁ。恐らくヤツは…伊賀の手の者だな。伊賀には私を知る者の心当たりがある。」 破られた窓から生暖かい風が吹き込んで葵と水蓮の頬を撫でていく。また会う事になる…そう言ったあの男の言葉。 葵は何故か胸騒ぎを押さえられずに夜空に輝く月を見上げた。 「…隼人、お前は一体何をしようとしている?」 独白にも似た呟きに答える者はおらず、ただ月は静かに輝いているだけだった…。  
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