1.災いの予兆

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「契約の破棄とは、一体どういう事ですか!?」 「そのままの意味だ。我らは今日をもって契約を破棄し、里に戻る。」 次の日の朝。葵は鷲峰が傷の手当てのために入院している大学病院を訪れ、先の台詞を平然と言ってのけた。 驚いたのは水蓮と鷲峰。前者は任務に対して誠実であるはずの葵が仕事を放り出して帰ろうとしている事に。後者はこのタイミングで契約を破棄されるとは思ってもみなかったからである。 「そ、それは困ります!!私は昨日命を狙われたばかりですぞ?」 「そんな事は私の知った事ではない。もちろん、契約を破棄するのだから報酬は要らん。」 「ですが!!それでは誰が私の身を守って…。」 「くどい。何と言おうとお前からの仕事は二度と受けん!水蓮、帰るぞ。」 必死に縋ろうとする鷲峰を一蹴し、葵はクルリと踵を返した。水蓮が慌ててその背を追いかけ、一人病室に残された鷲峰。 「小娘が…舐めた真似を!!」 そして男はサイドボードから携帯を取り上げ、何処かへと電話をかける。相手は鷲峰にとって目上の人物であるのか…電話越しだというのにへこへこと頭を下げ始めた。 「申し訳ございません、風魔の長を我ら側に取り込む事に失敗致しました。」 『予想はしていた。まぁ、好きにさせてやれ。あやつらが我らの敵に回ろうが回るまいが、然したる害は無い。それより、例の件は抜かりなく進めろ。良いな?』 「は、はい!!」 電話を切り終わった鷲峰の額に珠のような汗が浮かぶ。彼は大きく息を吸って緊張を解すと、身体を休めるために横になるのだった…。
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