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服部半蔵こと天野隼人(あまのはやと)は、通された座敷で胡座をかいて座っている。
茶を出してくれた水蓮に小さくありがとう…と言って真っ直ぐに葵の目を見据えた。
「それにしても、葵は綺麗になったな。見違えたよ。」
「…御託はいい、さっさと用件を言え。私は忙しいんだ。」
僅かに頬を赤く染め、ぶっきらぼうに葵が言い放つ。
焔と水蓮は隼人が葵に危害を加える事はないと践んだのか、静かに奥へと下がって行った。それを確認した隼人はおもむろに口を開く。
「お前の耳にも、伊賀と甲賀の間の緊張が高まっている事は届いてるだろ?」
「ああ。その事で甲賀が不穏な動きを見せている事もな。」
葵が手に入れた情報によれば…甲賀はいろいろな大企業と繋がりを持ち、その企業からは甲賀に金が流れているのだという。それは全て、敵対している伊賀を完膚なきまでに叩きのめすためではないかと予想された。
「単刀直入に言う。甲賀との戦いに勝利するため、俺達伊賀に力を貸してくれ。」
「我ら風魔を、伊賀と甲賀の小競り合いに巻き込むつもりか?」
「それが…面倒な事に戸隠が甲賀側に付いちまったんだよ。だからこうしてお前に頼みに来たんだ。」
隼人の言葉に、葵は息を飲んだ。戸隠とは現存する忍の流派の一つ。確かに、甲賀だけでなく戸隠まで相手にするとなると厄介な話だ。
「まずはお前が知っている情報全てを話せ。でなければ判断出来ない。」
「わかった。」
隼人は姿勢を正すとゆっくりと言葉を紡ぎだす。
その表情からは穏やかな雰囲気は消え、代わりに厳しさが浮かんでいた。
…それは紛れもなく伊賀忍頭領としての隼人の表情だった。
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