2.幼き日の約束

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  「…ふふっ。」 「何笑ってんだよ。」 「少し昔を思い出していた。」 夕食のあと、屋根の上に登って月を見上げていた葵。気が付くといつの間にか隣に隼人が座っていた。 「…あの頃のお前はよく泣いていたのに、今じゃすっかり風魔の頭領だもんなぁ。」 「そっちだって、よくいたずらをしては先代様に叱られていたじゃないか。まさか、そのいたずらっ子が伊賀の頭領になっているとはな。」 「…言うなよ、それ。もう時効な話だろ?」 恥ずかしそうに舌打ちをして隼人が屋根に寝転がると、葵は静かに空を見上げた。 「隼人は変わってないな。あの頃と一緒だ。」 その声は少し寂しそうで、星が輝く夜空に吸い込まれて消えていく。僅かにため息をつく隼人はこう答えた。 「お前だって変わってないよ。泣き虫のくせに強がりで。今だって『頭領』という鎧を着て、必死に強がってるじゃねえか。」 「…そんな事は…。」 「俺の前でくらい、本当のお前でいろよ。強がらなくてもいいから…さ。」 先代の小太郎が亡くなって自分が小太郎を継いでから、葵が本当の自分を出すことはなかった。不安や辛さ、自分の弱い部分を見せる事などせず、必死に頭領であるために自分を律しながら生きてきたから。 そんな胸の内を言い当てられ、僅かに動揺がはしる。 「でも…。」 「あのなぁ、頭領といえど人間なんだぞ?悩む事だってあるし弱い部分もある。一人くらいにそんな姿見せたっていいんじゃねぇのか?」 それは葵が望んでいた言葉であり、誰にも言われたことがなかった言葉だった。 思わず熱くなる目頭。必死に涙を堪えると、ふわりと空気が動く気配がして頭を撫でられた。  
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