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「…ふふっ。」
「何笑ってんだよ。」
「少し昔を思い出していた。」
夕食のあと、屋根の上に登って月を見上げていた葵。気が付くといつの間にか隣に隼人が座っていた。
「…あの頃のお前はよく泣いていたのに、今じゃすっかり風魔の頭領だもんなぁ。」
「そっちだって、よくいたずらをしては先代様に叱られていたじゃないか。まさか、そのいたずらっ子が伊賀の頭領になっているとはな。」
「…言うなよ、それ。もう時効な話だろ?」
恥ずかしそうに舌打ちをして隼人が屋根に寝転がると、葵は静かに空を見上げた。
「隼人は変わってないな。あの頃と一緒だ。」
その声は少し寂しそうで、星が輝く夜空に吸い込まれて消えていく。僅かにため息をつく隼人はこう答えた。
「お前だって変わってないよ。泣き虫のくせに強がりで。今だって『頭領』という鎧を着て、必死に強がってるじゃねえか。」
「…そんな事は…。」
「俺の前でくらい、本当のお前でいろよ。強がらなくてもいいから…さ。」
先代の小太郎が亡くなって自分が小太郎を継いでから、葵が本当の自分を出すことはなかった。不安や辛さ、自分の弱い部分を見せる事などせず、必死に頭領であるために自分を律しながら生きてきたから。
そんな胸の内を言い当てられ、僅かに動揺がはしる。
「でも…。」
「あのなぁ、頭領といえど人間なんだぞ?悩む事だってあるし弱い部分もある。一人くらいにそんな姿見せたっていいんじゃねぇのか?」
それは葵が望んでいた言葉であり、誰にも言われたことがなかった言葉だった。
思わず熱くなる目頭。必死に涙を堪えると、ふわりと空気が動く気配がして頭を撫でられた。
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