1.災いの予兆

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  先ほどの中年の男は手短に仕事の依頼をすると、もう用事はないと言わんばかりにそそくさと帰って行った。 今回の仕事の内容は…とある会社の社長の護衛。契約書を眺めていると縁側の方から間延びした声がかかる。 「何だか最近…そんな護衛の仕事が多いねぇ。」 「水蓮、居たのか。」 「その仕事、あたしが行こうか。今里に残ってる奴等は若いのが多いし、あたしだったら心配も無いだろ?」 葵よりは少し年上で、黒い着物を色っぽく着崩した女…葵の右腕であるくの一の水蓮(すいれん)がいつの間にか障子戸にもたれるようにして立っていた。 「ならば、私とお前でこの仕事をこなすとしよう。」 「へぇ…お頭直々とは珍しいじゃないか。」 「私とて、たまには動かねばな。名刀も使わずに放って置けば錆びてしまうだろう?」 ニヤリと葵が笑えば、水蓮はお手柔らかに、と言って持っていたタバコに火をつける。 ふぅ…と煙を吐き出すと、何かを思い出したかのように声を上げた。 「そういえば、どうやらあの話は本当みたいだよ。甲賀は本格的に伊賀を潰しにかかってるみたいだね。」 伊賀と甲賀…風魔以上に有名な忍者の里。この2つの里は、遥か昔からお互いをライバル視しては戦いを繰り返して来た。 最近、この二つの里の間で一触即発の緊張が高まっていると聞く。 「やはりそうか。」 「風魔が巻き込まれなきゃいいんだけどねぇ…。」 そんな水蓮の呟きを聞きながら、葵は空を流れる雲を見つめていた…。  
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