1.災いの予兆

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  「お頭、大丈夫かい?」 「吐き気がする…。」 鷲峰との対面の後、うんざりとした体で溜め息をつく葵に水蓮が声をかけた。どうやら依頼主は葵が最も苦手とする『スケベじじい』といった類いの人間らしく、むやみやたらに手を握られたりされたのが気にくわなかったようだ。 「仕事でなければ、今すぐあの世に送ってやるのだがな…。」 「ちょ!物騒な事言わないどくれよ!!」 「案ずるな、ただの戯れ言だ。」 「お頭が言うと冗談に聞こえないね…。」 二人はそんな他愛もない会話を交わしつつ、社長室のあるフロアを歩き回った。 非常時のための避難経路と依頼主に害を及ぼすものがないか確認をするためだ。 「どうやら異常はないようだな。」 「それにしても、あたしらみたいな忍に護衛を頼むなんて…よっぽど切羽詰まっての事なんだろうねぇ。」 言われてみれば、確かにそうだ…と葵は思う。今まで来た護衛の仕事は政府の要人などからが多く、今回のような個人からの依頼は珍しい。 「水蓮…念のためあの男の身辺を探れ。奴を恨んでいるものや敵視しているものがいないかどうかをな。」 「あいよ。」 短くそう答えて水蓮が姿を消すと、どうにも消せない嫌な予感に葵は小さく溜め息をつき、ビルの谷間に沈んでいく夕日を睨み付けていた…。  
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