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相変わらず自分の物言いにいちいち突っかかって来る水蓮を焔はじろりと睨みつけるが、流石に今は頭領の愁を前にしている。こんな所でこのケンカを買うわけにはいかないと、何とか耐えた。
「全く、お前達二人は相も変わらず…。愁様、本当によろしいのですか?」
苦い顔の黒曜が愁にそう言った。まるで何かを確認するような言葉に、状況が全く見えて来ない二人が首を傾げていると、腹心の部下に破顔してみせた愁はゆっくりと言葉を発する。
「今日はお前達に話したい事があって来てもらった。まずは…葵、こちらへ。」
愁の呼び掛けと共に隣の部屋へと続く襖が開け放たれて幼い少女が自分達の前へと進み出た。頭領によく似た顔の少女が二人を真っ直ぐに見ている。葵と呼ばれたその少女は頭領である愁の娘で、いずれはこの里の頭領となる人だ。
「突然だが、お前達には葵の鍛錬や勉学、日常生活諸々の面倒を見てもらう。次期頭領となるこいつ、をしっかり補佐してやってくれ。」
「は!?」
「…え?私と…水蓮が…ですか!?」
それは予想だにしていなかった頭領からの命令で、水蓮と焔は思わず驚きの声を上げる。
それもその筈、自分達より適任だと思える忍が目の前に座っているからだ。
「そりゃ光栄な事なんだろうけど…どう考えても黒曜様の方が向いてるんじゃないの?」
「そうです、俺はともかく水蓮は問題があるのでは…。」
「あんた、それは遠まわしにケンカ売ってんのかい?」
今にも愁の目の前でケンカを始めそうになった二人に黒曜は腰を浮かせたが、それを制して風魔の頭領は穏やかな声でこう告げる。
「黒曜には俺を補佐する仕事がある。正直、葵の育成に時間を割く余裕などない。そこで俺はお前達に白羽の矢を立てたんだ。…不服か?水蓮、焔。」
そう言われてしまっては、『嫌だ。』などとは答えられる筈もなく…年若い忍達は揃って口をつぐむ。
「水蓮、焔。これからよろしくね。私にいろいろ教えて下さい!」
無邪気に笑う葵に対し、戸惑いながらも頷く二人を見た黒曜は先が思いやられる…と人知れず溜め息をついた…。
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