5.阿吽の呼吸

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  『あの水蓮と焔が二人揃って葵様の教育係になったらしい。』 そんな噂は狭い風魔の里にあっという間に広がってしまった。 あの水と油のような相容れぬ二人が次期頭領である葵のそばに仕える。それは風魔の里にとって大きな衝撃をもたらす事となったのだ。 「はぁ、気疲れする…。」 鍛錬の時間が終わり、葵は焔と勉強をしに行ってしまった。 縁側にどかりと腰を下ろした水蓮は盛大な溜め息をつきながらそう呟く。葵の教育係に任じられてから今日でもう一週間。その間、何とか理性を総動員して焔とのケンカを避ける事には成功していた。 「お嬢の前でケンカするわけにはいかないし、実力者なのは解るけど…やっぱりムカつくものはムカつくんだよねぇ…。」 確かに、焔は忍としての腕は確かだ。それは間違いない。だが…彼は人間的な部分で根本的に自分とは合わないのだと思う。 「何だ、景気の悪い顔をして。」 僅かに揶揄するような色を含んだ言葉が頭上から降ってきた事に対して彼女が顔を上げると… 「黒曜様…あんた、意地が悪いよ。」 そこにはニヤニヤと笑う黒曜が。彼はげんなりとしている水蓮の隣に腰を下ろすと、大きな掌で妹分であるくの一の頭をわしゃわしゃと撫でてやった。 「気の短いお前にしては、随分と頑張ってるじゃないか。」 「そりゃ、あたしにも一応…気使いってもんは存在するからね。目の前でケンカばかりされたら、お嬢だって気分悪いだろ?」 「それはそうだが…そもそも、お前は何故そんなに焔を毛嫌いするんだ?」 いきなり核心をつく質問をするものだ…と水蓮は思う。僅かに思案をした後、彼女はこう切り出した。 「黒曜様は…あたしの事をどう思う?」 「どうって…お前は年若いくの一でもトップクラスの実力を持っていると思うし、俺にとっては可愛い妹分…って所だが。それがどうかしたか?」 黒曜は水蓮の質問の意図が何となく見いだせなかったが、素直にそう答えた。一方の水蓮は自分を認めてくれている黒曜の言葉に満足げに笑う。 「嬉しい事言ってくれるじゃないか。…でもね、焔は違うんだよ。あいつは、私の事なんか認めてくれていない。私の親が抜け忍だから、最初から私の事を同じ里の仲間だなんて思ってないんだよ。」 苦々しげに呟いた水蓮の言葉が、今まで笑っていた黒曜の顔から笑みを消した…。  
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