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抜け忍…それは忍である事を捨て、民間人として生きる事を選んだ者の総称。今でこそ厳しい罰を与えられる事はないが、その昔…忍にとって里を抜けるという事は最大の禁忌とされていた。
そして、水蓮の両親は生まれたばかりの彼女を捨て抜け忍として野に下った。故に、水蓮は幼い頃から『抜け忍の娘』という不名誉な称号を背負って生きて来たのである。
「あいつにとって、抜け忍はただの裏切り者にすぎないんだ。そこにどんな理由があったとしても…ね。」
「水蓮…。」
いつもは明るく振舞うムードメーカー的存在の彼女が背負う闇。それを垣間見た様な気がして黒曜は何も言えずに黙り込んでしまう。そんな空気を吹き飛ばすかのように水蓮は笑った。
…どこか悲しげな雰囲気を漂わせながら。
「里のみんなが冷たくしてくるわけじゃないし、黒曜様やお頭様みたいに優しくしてくれる人もいるから…私はそれでいいと思ってるよ。でも、焔は別。あいつは私に敵意しか持っていない。だから私もあいつが嫌いなんだ。」
「そう…か。」
それ以上の言葉は見つからなかった。どうやら黒曜が思った以上の溝が水蓮と焔の間にはあるらしい。彼は浅く溜め息をついて隣に座る妹分の顔を見下ろし、
「水蓮、一つ聞いてもいいか?」
と遠慮がちに問うた。一方の水蓮は長い髪の毛先をくるくると指で弄びながら『どうぞ。』とだけ答える。
「もし…もしもだ。焔と解り合える事が出来るとしたら…お前はあいつと歩み寄りたいと思うか?歩み寄る努力をするか?」
「んー、そうだねぇ。そんな時が来るとは思えないけど…もしそうなったら頑張ってみようかな。仲間同士仲良くするに越した事はないだろ?」
そう言って、ニカッと笑うくの一。そんな彼女の顔を見て黒曜も僅かに笑うと、何も言わずに再び彼女の頭を撫でてやった。
その手が暖かくて優しくて、水蓮の胸の内には嬉しさが込み上げて来るのだった…。
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