5.阿吽の呼吸

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  ーざぁぁぁ…。 夜風が梢を揺らす音が聞こえる。 葵の教育係に任命されてからは、頭領屋敷の離れで葵と共に生活をするようになった。三人で食事を摂ったりする居間代わりの部屋に、それぞれの居室。水蓮は葵を風呂に入れて寝かしつけに行っているので、焔は居間代わりの部屋で一人本を読んでいた。 彼の胸の内に去来するのは、もう一人の教育係である水蓮の事。 (なぜ、あのような者が葵様の教育係に任ぜられるのだ?) あの思慮深い愁が、何の理由もなく自分達を指名するとは考えにくい。何かしら理由があるのだろうとは思うが…焔にはそれがさっぱり解らない。 「裏切り者の血を引く忍が葵様のお側に仕えるなど…。」 思っていた事がつい口をついて出てしまうと、突然音もなく襖が開かれる。そこに立っていたのは、彼が尊敬してやまない頭領の愁であった。 「と、頭領!!お呼び下されば、こちらから出向きましたのに…。」 「いや、気にするな。少しお前と世間話がしたかっただけだからな。」 そう言って笑う愁は、身を固くしている焔に楽にするように言うと部屋の真ん中にある卓に向かって座った。 「それで、先程の『裏切り者の血を引く忍』と言うのは、水蓮の事か?」 聞かれていたのか…と内心苦笑しながら頷く焔。愁は茶卓から急須と湯呑を取ってお茶を入れる。そして一口それをすすってからこんな事を口にした。 「お前は、どうしてそんなに水蓮を目の敵にするんだ?あれに何かされたのか?」 「…は?」 「いや。そこまで言うからには、何か理由でもあるのかと思ってな。どうなんだ?」 今までそんな事は誰にも聞かれた事がない。だが、自分の中で確たる理由があった彼は…しっかりとした声で答えを言い放つ。 「それは水蓮が抜け忍の娘だからです。抜け忍は里の和を乱す大罪人…言うなれば裏切り者です。そのような親を持つ人間を、俺は信用する事など出来ません。」 焔は、代々頭領を継いで来た如月の分家の出身であった。両親から『頭領は絶対。頭領と風魔の里を守るためなら…肉親すら切って捨てよ。』と教えられて育って来たのである。それゆえ抜け忍となって風魔の里を捨てた水蓮の両親と、そんな親から生まれた彼女の事は許せないと…そう愁に語った。  
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