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戸惑いを見せる焔に対し、愁は厳しい表情でそう言った。確かに、今まで自分は水蓮がどんな事を考え、行動し、生きて来たのかなど考えた事すらない。だから愁が発する言葉の一つ一つが胸に刺さる。
「俺が…間違っていると仰りたいのですか?」
「そうは言っていない。この里を大切に思い、和を重んじるお前の気持ちにも一理あると…俺はそう思う。」
「ですが、今の頭領は…水蓮を擁護しているようにしか見えません。」
そうだ、自分にこんな話を聞かせるのは、水蓮に対する自分の態度や考えを改めさせたいからに違いない…尊敬する頭領は、自分より水蓮を庇っているのだ。里の事を第一に考え、頭領に忠誠を誓っている自分より、裏切り者の娘である水蓮に重きを置いている…そんな風にしか思えない。
顔を歪ませて自分に鋭い眼光を向ける焔に対し…
「今のお前には言っても無駄のようだな…。」
愁はそう呟いて、それ以上何も言わずにその場を後にして行く。どこか落胆の色すら浮かべた彼の背中を見送る焔は、一人修練を続ける水蓮の姿を睨みつけ…
(…お前など…この里に必要ないんだ!)
そう強く思って唇を噛んだ…。
自分が抱いた感情が『嫉妬』だという事には気づかない彼は、心から水蓮を憎いと感じ、疎ましいとすら思う。
ただ、月の光だけが優しく辺りを照らし続けていた…。
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