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…何だか最近、焔の自分に対する風当たりが強くなったような気がする。
何かしたような覚えはないのだが、流石にあれほどの敵意をむき出しにした焔と一緒に行動するのが億劫になり始めたある日の事。水蓮は愁と黒曜から呼び出しを受けた。
「水蓮、入りま~す。」
いつもの調子で頭領の部屋の襖を開けると…そこには困ったような顔でこめかみを押さえた黒曜と、にこりと笑う愁がいた。
「お前…頭領の部屋に入る時はきちんと挨拶をしろと、あれほど…。」
「黒曜、何とも水蓮らしくていいじゃないか。俺は構わんよ。」
「わかってるじゃないか、お頭様♪で、あたしに用って何だい?」
笑いながら愁達の前に正座をする水蓮。黒曜は溜め息をつきながらも簡潔に答えた。
「お前に仕事だ。正確に言えば…お前と焔、それと葵に…だがな。」
「え!?お嬢もかい?」
確認をするかのように愁を見れば、彼は何も言わずに頷く。それを見た水蓮は焦ったように捲し立てた。
「ちょ、ちょっと待っておくれよ!うちらはまだしも、お嬢を任務に着かせるのはまだ早いんじゃないのかい?」
彼女の言うとおり、葵はつい最近十一の誕生日を迎えたばかり。世間一般では小学校を卒業してもいない年頃。そんな娘を忍の任務に着かせるなど…時期尚早すぎではないか。
それは黒曜自身も感じていた事だが、何よりこれを言いだしたのは頭領であり葵の父親でもある愁なのだ。反対出来る道理がない。
「お前も考える事があるだろうが…全ては愁様の御考えだ。葵に万一の事がないよう、焔と力を合わせて乗り切って見せろ。その実力は充分持ち合わせていると…俺と愁様は信じている。」
「そう言ってもらえるのは光栄だけど…何で私一人を呼び出したんだい?焔にも聞かせる話だろ、これって。」
「あいつにはもう話してある。本当はお前と一緒に呼び出すはずだったんだが…水蓮と一緒は嫌だと言ってな。」
「へぇ…そうかい。」
愁の言葉に、想定の範囲内だと納得してしまう水蓮だったが、嫌われているとは解っていても…あまり気分がいいものではないと表情を曇らせた。
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