1.災いの予兆

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  『ぎゃあぁぁぁぁ!!』 鷲峰の自宅で宛がわれた客間で休んでいた二人の耳に、闇夜を切り裂くような叫び声が届く。 「お頭…今のは。」 「行くぞ、水蓮。」 互いに顔を見合わせて自分の得物を手に取ると、風を切るような速さで部屋を飛び出した。目指すは、悲鳴の聞こえてきた方向…鷲峰の書斎。 一気にドアを蹴破ると、部屋の中には肩口を袈裟懸けに浅く斬られた鷲峰の姿があった。 傍らに立つのは、全身黒い服をまとった男。頭部も黒い布で覆われており、顔を確認する事は出来ない。 「ひい…っ!!た、助けてくれ。金ならいくらでも出す!!」 二人の姿を見るなりギャアギャアと耳障りな声を上げる依頼主に眉をひそめ、葵は目配せで水蓮に鷲峰を守るよう指示を出した。 「…何者だ。」 低く、研ぎ澄まされた刃のような葵の声。黒服の侵入者と鷲峰の間に立つと、彼女は手にしていた刀を抜く。 「退け。用があるのはそこのブタだけだ。お前達と争うつもりはない。」 「残念ながらそれは出来ない。我らも仕事なのでな。」 葵の言葉を聞き、侵入者が布の下でニヤリと笑ったような気がした。  
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