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「そんな不義理な真似するか。ワシらは宗秋が死んだ後も、この地におったわ。」
心外だと言わんばかりだな。
鼻息も荒く、詰め寄ってきた。
「んじゃあなんでご先祖様が死んだ後はお前らのことが一切記録に残ってねぇんだよ。」
「宗秋の子には、力が半分も受け継がれなかったからじゃ。故に宗秋の子も、そのまた子も、ワシらの姿を見ることは叶わぬかった。」
「あぁ…納得したわ。そりゃあ記録に残しようがねぇわな。つうかそれだと、ご先祖様の偉業は誰が記録に残したんだ?」
「無論、黒祷の者じゃ。宗秋以外は見えてないから、ワシらは漆黒纏う神々、あるいは死神と呼ばれた。この家に残る記録に、ワシらの姿を細かに記したものはないじゃろう?」
確かに。
俺は親父から聞かされただけで記録そのものを見たことはないが、親父は一度たりともどんな姿だったのか告げたことはない。
いつだってコイツ等は漆黒纏う神々、もしくは死神と呼んでいた。
「しかしな……黒祷家の死神と言えば、はっきり言ってこの町じゃ最強だ。」
いや、この町に限った話じゃねぇな。
どこに行ったって、能力が知名度に比例する以上、死神は最高位クラスの力を持つことになる。
「だからこそ、そんな存在が俺に見えるってのが釈然としねぇ。いくら隔世遺伝と言ったって、俺の代でそれが起こる確率なんざゼロに近いだろ。」
「だが起きた。ワシが見えている以上、間違いなく主は宗秋の力を受け継いでおる。もはや、生まれ変わりと言っても良いかもしれん。」
紅羽の目は輝いてるように見えた。
なんつうのかな……嬉々めいているように見えるんだ。
黒祷家にいながら、その血族は誰も見えない……そんな退屈な日々との決別を、心の底から喜んでやがる。
「契約は此処に、今一度結ばれる。主が見る世界は今宵より宴の始まりじゃ。魑魅魍魎、百鬼夜行、果ては流れ神との戯れ…まさに百花繚乱、心行くまで楽しもうぞ。」
ふざけんな、魑魅魍魎も百鬼夜行も、咲き乱れれば只の悪夢だ。
美しさなんざ欠片もねえ。
そう……言えれば良かったんだがな。
悪鬼共の華…そこに一輪の華が舞い込んで、悉くを散らす。
そんな姿を想像してしまい、口に出来なくなった。
それはまさしく百花繚乱。
目の前の華は、あんまりにあんまりな程に小さくて、そのくせ"最強だ。"
是非も無く、ただ美しいに決まってる。
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