0話~誰か嘘だと言ってくれ~

5/13
前へ
/99ページ
次へ
「―――――は?」 いやいや親父。 よく見ろよ。 アンタのその視線、確実に眼帯幼女が視界に居るはずだ。 「い、居るじゃないかっ!」 「どこに?」 「目の前っ!便器の上にちんちくりんが立ってるだろっ!」 「便器の上にちん〇んが立ってる?」 「立たねぇし言ってねぇっ!!!」 いい加減に通報されるぞ、色んな意味で! 「つうかマジで見えねぇのかよ!銀髪の女の子!居るだろ!」 「何度も言わせるな、見えんもんは見えん…………あぁ、そうか、もしかしてお前、座敷わらしを見てるんじゃないか?」 「はぁっ!?」 いや確かにそんな表現はしたけどさ。 こいつどう見ても海外製だぞ。 つかなんで座敷わらしが便所に居るんだよ意味わかんねぇよ。 「そうかそうか、ようやく我が家にも座敷わらしが来たか。いやぁ、これで安泰だなぁ。お~い母さん、警察呼ばなくて良いぞ~!せっかくの幸運が流れてしまう!トイレだけにな!はっはっはっ!」 「はっはっはっ!じゃねぇっ!」 俺の叫びはどこへやら。 愉快げに笑いながら、親父はお袋のもとに行ってしまう。 その背中を止めようと、あわよくば振りまかせようと必死に言葉を叩きつけたが、びくりともしやがらない。 こんなときだけあの親父の背中はたくましいから腹が立つ。 親父から話を聞いたんだろうな。 間もなくしてお袋の歓喜の声が聞こえた。 親父の笑い声が混じっているのは言うまでもない。 「………気は済んだかのう?」 不意に、声がする。 確認するまでもない。 ちんちくりんの声だ。 「ワシはあの程度の輩には見えんよ、いくら黒祷の者と言えどものう。」 その声に、恐る恐るちんちくりんに目を向ける。 眼帯の左側で、紅い瞳を内包した目が、柔和に歪んでいた。 可愛いとは微塵も思えない、鷹のような笑み。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加