生きる時間

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食べられなかったサンドイッチはきっと 捨てることになるだろう 放っておけば腐るだろう 去年の今頃は九州にいた ゴールデンウィークを目一杯つかって旅行をしていた 飛行機で博多までいき、送っていたバイクに乗って東京まで帰ってくる旅行だ 見たこともない景色、経験したことのないたくさんのものを 手に入れた 月並みだけど、生きているとこんなにも素晴らしい経験をできるんだ、ワタシが今まで見ていたものの小ささや、自分の存在の浅はかさを知った 深い海を見て、巨大な山を走って、きちんと味のする色んなものを食べた 旅の終わりは、終わってしまうことが哀しくてバイクに乗りながらメソメソと泣いた 泣いておいて良かったと今しみじみと感じている あのときに感じた過ぎ行く時間の惜しさや、変わる景色の儚さをココロの底でぐっと掴んで離したくないと思えた、ココロの健全さを貴く思える もう、感じることがないかもしれない感動を、ワタシは邪険に刹那的に見送ったわけではなく、しっかりと自分の目と耳と手と心臓で掴んだのだ もう、経験できないのかも知れない きっと同じ気持ちにはなれない 旅行の中での初恋だった 今のワタシはどうだろう… 食べられずに置き去りにされた サンドイッチのように どんどん鮮度は落ちるのか 同じ場所にはいられない 動き出す勇気ときっかけがあれば 新しい場所に行けるのだろうか 探すことを拒んでいるわけではない ただできないだけだ 今のワタシではできないのだ 病気にならなかったら? 好きなひとが今もそばにいてくれたら? くだらない疑問ばかりが頭を巡る 答えなんてない 今この瞬間が答えだから 貧血で倒れるのも 薬が効かないのも 流れる血が止まらないのも 体で起きている変化が すべての答えだから それを拒むことはできない バイクに乗ってメソメソ泣いた あのときの自分は最高に 幸せだった 同じ泣くなら、あのときみたいに泣きたい 毎日毎日そんなふうに泣いていたい 大自然に抱かれて、流れる涙は風が拭ってくれた しゃくりあげる肩は木々が抱いてくれた 海はキラキラと宝石みたいに光って元気づけてくれた すべてが優しく寛容だった その中で死にたいのだ きっと寂しくないだろう 最高の思い出を胸に抱いて そうやって死んでいけたら幸せだと思うのだ
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