第一夜 背徳の賢者(アデプタス)

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「ったく遅ぇにも程があんだろうがよ。 あんまり待たせんなボケ」 着席したヴィクトリカとハンスに、敵意に満ちた罵声をぶつけたのは、長く沈黙を保っていた右目に眼帯をあてがった軍服姿の赤毛の青年だ。 彼の名はギュンター・ミュレンハイム。 彼もまた、ヴィクトリカらと同じ〝鉄十字機関〟の一員である。 ちなみに、ギュンターは現在ドイツ陸軍中尉として日夜、軍務に精励している。 「許せ。私だって精一杯急いだんだ。 出来ることなら君達を待たせたくは無かったさ」 紅い瞳で自らを睨みつける同僚に対し、ヴィクトリカは極めて紳士的に弁明した。 「さて、皆揃った所で早速始めようかのう・・・閣下、」 「・・・うむ。 〝鉄十字機関〟諸君。 先月からポツダムで頻繁する猟奇殺人事件だが、あれは〝夜魔〟の仕業によるものと判明した。 また、秘密警察(ゲシュタポ)の調査によれば〝ワルター・ゲオルゲ〟 という神秘主義者に〝夜魔〟の疑いがあるそうだ。 ・・・諸君には今夜中に、奴の身柄を確保して貰いたい。 詳しい要綱については、手元の資料に目を通して欲しい」 ハウスホーファーに促され、ヒトラーは重々しい口調で指令を下し始めた。
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