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「今夜中か・・・僕、呪符の準備を全然してないや。
もう残り少ないんだった」
手元の要綱書き-すなわちワルター・ゲオルゲ拿捕(だほ)の手順が書かれたプリントに目を遣りつつ、ハンスはそうぼやいた。
「ああ?ベルリン出立が二十時なんだからその間に作ってりゃ良いだろうが」
そんな同僚に対してギュンターは彼特有の喧嘩腰の口調でそう言った。
「いや、そうもいかないらしい・・・呪符を作るべき日取りは決められている。
そうだな?ハンス君」
ギュンターの言葉に応じたのは、ハンスでは無くヴィクトリカであった。
ヴィクトリカは細巻きの葉巻を燻(くゆ)らしながらハンスに視線を向ける。
「うん、実は僕みたいな陰陽師が用いる呪符は、いつだって作れるわけじゃないんだ。
・・・処理の仕方にしても細かく定められてるし面倒臭いんだよね」
「成る程・・・しかしハンス、テメェそれで今回の仕事できんのか?」
ギュンターは言葉面とは裏腹に心配げなトーンで尋ねる。
「まあ、今回分は何とかなりそうだけど無駄遣いはできないかな」
微苦笑に口許を綻ばせ、ハンスは髪を掻いた。
「私も硫黄に塩酸、それにリン、酸素とエーテルの混合物は準備済みだ。
万一戦闘になっても問題はなかろう」
ヴィクトリカは灰皿に葉巻を押し付けると、立ち上がって大きく伸びをした。
「諸君の健闘を祈る」
ヒトラーは立ち上がり、ナチ式の敬礼で三人を送り出した。
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