第一夜 背徳の賢者(アデプタス)

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「くくくく、貴様らは愚かだよ。 この儂に喧嘩を売ろうというのじゃからなあ」 フードの下、皺くちゃの顔に埋もれた瞳をぎらつかせワルターは鴉(からす) のような声で不気味に笑った。 「たいした自信だ。だが・・・」 「貰ったアアアッ!!!」 男装の麗人の言葉を遮ったのは、甲高い老魔術師の咆哮とまばゆい閃光であった。 「・・・・・・ッ!!」 ヴィクトリカは、自らの長広舌を呪った。 しかし、時既に遅し。 強烈な閃光が辺りに溢れたまさにその刹那、凄まじい轟音と共に炎の竜巻が巻き起こった。 灼熱の突風に、あばら屋は紙屑の様に引き裂かれ、打ち砕かれ、焼き尽くされ、跡形も無く破壊された。 しばらくの後。 夜に、静寂が再来した。 あばら屋は完全に形を失い、先程まであばら屋を成していた煉瓦や木材は、燃え殻と化し辺りに散らばっている。 「ふ、ふはははははッ、何だ何だ、口ほどにも無い奴らだのう〝ナチスの狗ども〟は!!」 瓦礫の山の中央に佇むワルターは高らかに哄笑した。 「ほう、中々良い腕じゃないかワルター。 流石に口だけじゃないようだ」 「あーあ、僕の服焦げちゃったよ。 お気に入りだったのに」 「お気に入りなんか仕事に着てくんなよ。 その点、俺は官給品だし」 未だ立ち上る白煙の彼方から響いた三つの声に、ワルターは驚愕した。 まさか、あれを食らって奴らは無傷とでも言うのか・・・!? 「無詠唱で魔術を用いるとはね。 やはり〝夜魔(きさまら)〟は恐ろしいよ。 さて、そろそろ仕事を済まさなくてはな・・・」 ヴィクトリカはワイシャツのタイを整えると、上に羽織ったコートの内ポケットから三本の銀で封印が為された試験管を取り出した。 「おお、やる気だねぇ」 「だね。あれは本気だよ・・・さ、僕らも仕事仕事」 ヴィクトリカに続いて、ギュンターとハンスも敵手と正対した。
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