第一夜 背徳の賢者(アデプタス)

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「さて、これでは不足かな?」 からかうような口調で歌う男装の麗人は、右手の指に挟んだ三本の試験管を敵手に投げ付ける。 『汝、エーテルと水素の混合物よ。万物の理に従いて蒼き鎗と為れ』 回転しながらワルターに迫る三本の試験管の封印が詠唱に呼応し、音を立てて弾けた。 それと同時に試験管から巨大な水柱が放たれ、ワルターに炸裂する。 「ぐ、ぐおおオオオオっッ!!!」 断末魔の叫びと共に、三本の鎗の勢いに身を支配されたまま数百メートル先のビルに身を叩きつけられた。 「おのれッ・・・!!」 それでも流石は〝夜魔〟 ワルターは咆哮し、再び魔術を起動せんとする・・・筈だった。 「急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!!」 しかし、実際には青年-ハンスの鈴を振るような声に咆哮は遮られてしまった。 そして、鋭い風鳴りを伴い飛来した一枚の紙切れがワルターの視界を朱く染め上げた。 轟、と唸りをあげて紙切れは炎の奔流を吐き出した。 「グオオオオオォッ!!馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なッ!!!」 生きたまま身を焼かれる老魔術師は醜い怨嗟に満ちた怒号を発し、のたうちまわる。
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