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「ッアガアアアア!!!
ひ、火が、火がアアアアッ!!」
狂獣めいた絶叫と共にワルターは地面を転げ回る。
その姿には、先程までの傲慢さも、威厳も存在せぬ。
そんな惨めな敗北者を見下ろし、ヴィクトリカは革靴の底を鳴らし悠然と歩み寄る。
・・・眼前の狂獣にとどめを刺すために。
「ハンス君。見事な技だった。君の陰陽師としての腕には救われるよ・・・なあ、ギュンター」
「ああ、全くだ。
威張りくさってるどこぞの女よかよっぽどな」
皮肉げに応じた声は、遥か闇の奥から響き渡った。
目を凝らせば、魔女の傍らに一つの影が蟠(わだかま)っていた。
ギュンターと呼ばれた影は、月光に輝く紅き毛皮に鋭く突き出した口吻、そしてよく発達した逞(たくま)しい脚を備えている。
その姿はまさに〝狼〟そのものであった。
「ひ・・・・ッ」
ワルターは超人的な回復力をもってしても、未だ炭化したままの四肢を引きずり、壁を蹴って上空に逃れようとした。
しかし、
「甘いんだよボンクラ!!」
高く跳躍した紅い狼-すなわち魔術師ヴィクトリカに施された生体強化能力〝獣化〟により自らの身を狼に変えたギュンターにより、ワルターは首筋を噛みちぎられた。
赤く生臭い雨をほとばしらせ、鈍い音と共に首無しの身体が地に落ちた。
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