第一夜 背徳の賢者(アデプタス)

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「ルドルフ。まあ、何だな・・・彼女はああいう物腰なんだ。気にしないでくれ」 一気に張り詰めた空気を何とか和やかに収めんと、ヒトラーは宥(なだ)めるようにルドルフに言った。 「・・・貴方がそうおっしゃるならば・・・失礼」 恭しいが、いまいち愛想に欠ける口調で応じるとルドルフは再び沈黙した。 それと同時に、ギュンターとハンスが安堵したように息をつくのが聞こえた。 「ルドルフの旦那、やっぱり凄ぇな。迫力が違う」 「うん・・・なるべく敵には回したくないタイプだよ」 ギュンターは隣のハンスにそっと耳打ちした。 普段の傍若無人な彼の態度からは想像できないほど動揺している。 ハンスも全くギュンターと同じ気持ちだったので、こくこくと賛意を示した。 「俺が・・・・・・・何か?」 「ひいぃッ、!!」 噂のルドルフの突然の詰問に、二人は跳び上がらんばかりに狼狽(ろうばい)した。 「まあ、君の意見はもっともだが最近は〝夜魔〟もお盛んでな。 昨日のワルターのような〝騎屍〟にもなれない小物は勿論、〝鉄血のベルリヒンゲン〟ら達人(アデプタス)も動き出している」 〝騎屍〟とは、〝夜魔〟の戦闘形態である。 〝夜魔〟は、魔力だけでなく身体能力も人のそれを遥かに超える。 特により多くの血を啜った者は、力のみならず外形も魔物のそれに変貌する。 〝騎屍〟状態の〝夜魔〟の戦闘力は軍隊一個小隊に匹敵するとさえ言われている。 「それは厄介だな・・・だが、流石に私達だって週一は休みたいものだよ・・・さて、私はこれで帰る。 眠くて眠くて仕方がないんだ」 不満げに舌打ちしたヴィクトリカは肩をすくめて踵(きびす)を返した。 「そうもいくまいよ」 友の歯に衣着せぬ物腰に、ヒトラーは愉快げに咽(のど)を鳴らした。 男装の麗人に続き、次々と辞去してゆくハンスとギュンターの背中を見送り、ヒトラーは冷めた紅茶を啜った。
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