第二夜 〝紳士協定〟

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壮麗なシャンデリアの灯の下、とりどりの奢侈な美術品に彩られた大広間。 長い卓の上に並べられた香ばしい芳香を漂わす料理達を囲みながら、タキシードやイブニングドレスで着飾った紳士淑女が笑いさざめく。 ベルリンきっての高級住宅街の一画。 ここ、ロッシェンハイム公爵邸に今宵集うはドイツ貴族の一門とドイツ経済の担い手たる富豪たちである。 そんな中に、ただ一人例外が存在した。 その名はエーリッヒ・ウェグナー。 先程から大勢の婦人に囲まれている淡い金髪の若者だ。 彼はもともとベルリンの街角で占いなどを行い、口に糊していた素性の知れぬ男であった。 しかし、彼の占いがよく当たるということがベルリン中の噂となりエーリッヒは度々、上流階級の人々に招かれるようになった。 こうしてエーリッヒは上流階級の人々の信任を得るに至ったのであるが、殊(こと)に、ロッシェンハイム公爵はエーリッヒに絶大な信頼を寄せエーリッヒの信者となっていた。 また、エーリッヒはしばしば招かれるパーティーにおいて呪術的な儀式を行ったり奇妙な薬を配ったりと奇行を繰り返していた。 それもまた上流階級の人士の心を掴み、更に崇拝者を得る事となる。 かくて、当時の上流社会にはエーリッヒ・ウェグナーを中心として魔術や占星術、呪術の類が流行したのであった。
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