俺はお前を知っている。

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「俺はエスト、お前は?」 振り向いた顔に覚えはなかった。 父が軍人ということもあり、特に不審者には注意しなさい、と言われていた。 だから、 自分に向いている見知らぬ少年の指を、思いっきり振り払った。 「…お前、」 少年は今しがたはたかれた指を庇いながら、こちらを睨めつける。 悪態をついている自覚はある。 だが、改めるつめりはない。 こちらに非はない。 謝る必要もない。 「どこ向いてんだよ!!」 そうだ。 その時私は、目の焦点が合っていなかった。 それもそのはず、その日はありえないほど暑かった。 頭がボーッとして、体が思うように動かなかった。 最後の力を振り絞って、少年の指を思いっきり振り払った。 それが引き金となり、もうエクルは限界に達した。 グラッと体が傾いて、上手く力が入らない。 「っ!?おい!!」 そのまま、意識が途絶えた。 ───── ひやり、と額に触れた冷たい感触。 心地よいその感覚に目を開けると、目の前には… 「あ、起きた?お姉ちゃん」 「セラ…」 そこには、妹がいた。 周りを見渡して状況を確認したいが、どうもうまく頭が回らず、ボーッとしていた。 ここは今、セラとスノウが住んでいる家に違いはない。 しかし、なぜ私がここに? 私は確か任務で下界に… 「もう、びっくりしたんだよ?」 いつの間にか水を汲んできて、私に渡す。 ありがとう、と言いながら、どういうことだ?という目線を送る。 「だって、珍しくエストお兄ちゃんが来たと思ったら、顔色の悪いお姉ちゃんを抱えてるんだもん!」 びっくりしたんだよ?と続ける。 …ああ、そうか、 やっとわかった。 私は任務中に、また暑さにやられて倒れたのか。 それであんな懐かしい夢を… …? 待てよ、 「セラ」 「何?」 「なぜエストが私を連れてきたんだ?」 そうだ。 あいつは確かに前線にいっても、文句なしの才能がある。 しかし、戦いのなくなった今、指令官としての仕事が多くなったあいつが、わざわざ下界に出向くことなど有り得ない。 「ああ、それはね?エストお兄ちゃん。お姉ちゃんの直属の上司から連絡があったから迎えに行ったとか何とか…」 「なんだそれは…」 この頃、その直属の上司からひやかされる時がある。 多分あの上司は感づいている。
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