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こんなにもあなたのことを思ってるのに…
「─…、何考えてんの?」
そういって、シャツを着る。
自然と、もう帰ると伝えんばかりに。
「いや、何でもない。」
…何でもないわけがない。
なぜ私ばかりがこいつのことを気にしなければならない。
なぜ、好きになった…
なぜ、躰を重ねるだけの関係になった…
「んじゃ、俺帰るわ。」
ギシッとベッドが軋み、お前はドアに向かって歩いていく。
一度も…振り向くことはない。
そのまま、無造作にドアを開け、じゃあね、と手を挙げて姿を消した。
前までは置き手紙だった。
青いインクで並べられた伝言。
見る度に悲しくなる心。
何より、あいつといると抑えきれない、何か。
それがあいつとの事情で少し晴れていることを、私の躰は知っている。
…では、渇ききった心は?
どうすれば、満たすことができるのだろうか。
…わからない。
ムクッと起き上がり、まだ何も着ていない、産まれたままの姿が鏡に映る。
鎖骨のあたりに残された紅い痕。
これは何を意味しているのか、聞いたことがある。
すれとあいつは「特に意味はないさ。」と言っていた。
…一度だけ、
他の男と寝たことがある。
別に、理由なんて無いけど…
その時、初めて知ったことがあった。
その男も行為に対しては巧みだった。
だけど、あいつとの行為に比べたら、スイッチが入らなかった。
気持ちよくも無かったし、何かが抜け落ちていて、物足りなかった。
…私には、あいつじゃないとダメなのか…。
きっと、私のスイッチを持ってるのはあいつだ。
じゃないと、こんなことにはならなかった。
快感だけの交尾。
あいつにとって、私は間のいい女なのだろう。
だから、
この心が満たされることはないのだろう。
あいつの、
心が、読めたなら、
私を抱きながら、本命の女のことを考えていたら、
きっと私は、諦められる。
その憎いほどに美しい碧眼の瞳に、真実があるのなら…
瞳の奥をのぞかせて、
そして、
私の行き場の無い、
オアシスを求める心を…
置き去りにして、
すべて渇ききるまで、
あなたの瞳の奥がのぞけたなら、
一つでも本当の気持ちを探せたら、
それだけでいい
それだけがいい──
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