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「どうした、前に進まないのか?」 ボロボロの服を纏った男が話し掛けてきた。その声はどこか優しい。 男は道の脇にある岩の脇に立っている。 その岩に何か文字が書いてあるがよく見えない。 「お前は旅人なんだろ?」 無言で頷いた。 確かに自分は旅人だ。 旅人? 旅人なのか? 昔の事を思い出しても、旅を始めた記憶がない。 しかし、自分は旅をしている。 漠然としたものだが、それは理解している。 「何かを悩んでいるな」 ―何で前に進まなくてはならないんだ?― 「それは、お前が生きているからだ」 男は指をさしてきた。 「生きているものは必ず前に進まなければならない」 その声は力強い、しかし哀しみを帯びていた。 「この道の先を見ろ」 男は道の向こうを指先した。 それにつられて道を見る。 「何も無いだろ。しかし何かが有る。それは、お前にしか分からない」 自分にしか……。 ―分からない― 「今は分からないさ。これから分かる」 ―これから?― 「そう、この道を進んだ時、ここから見えないモノが見えてくる」 進む……。
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