6人が本棚に入れています
本棚に追加
道
「どうした、前に進まないのか?」
ボロボロの服を纏った男が話し掛けてきた。その声はどこか優しい。
男は道の脇にある岩の脇に立っている。
その岩に何か文字が書いてあるがよく見えない。
「お前は旅人なんだろ?」
無言で頷いた。
確かに自分は旅人だ。
旅人?
旅人なのか?
昔の事を思い出しても、旅を始めた記憶がない。
しかし、自分は旅をしている。
漠然としたものだが、それは理解している。
「何かを悩んでいるな」
―何で前に進まなくてはならないんだ?―
「それは、お前が生きているからだ」
男は指をさしてきた。
「生きているものは必ず前に進まなければならない」
その声は力強い、しかし哀しみを帯びていた。
「この道の先を見ろ」
男は道の向こうを指先した。
それにつられて道を見る。
「何も無いだろ。しかし何かが有る。それは、お前にしか分からない」
自分にしか……。
―分からない―
「今は分からないさ。これから分かる」
―これから?―
「そう、この道を進んだ時、ここから見えないモノが見えてくる」
進む……。
最初のコメントを投稿しよう!